女が部屋を出た後、親父は静かに口を開いた。 「マルコ、イゾウ…"あの本"を探してこい」 「あぁ…」 「わかったよい」 "あの本"。 一時期このモビー内で流行った本だった。 タイトルは、確か… 埃っぽい書庫はヒヤリと冷たい。 「なァマルコ…」 「なんだよい」 「お前さん、あの女…名前を信じるかい?」 ふと、女の瞳を思い出す。 無表情なクセに、力強い眼差し。 ゾクリと身体が震えた。 「さぁねい…お前はどうなんだよい」 聞き返すとイゾウは物色する手をそのままに笑った。 「"本"を読んだ時はまさかと思ったがな…今はひどく気分がいいよ」 「じゃあ…信じてんだな」 「何が起こるかわからねぇ…それがこの海だろ?」 そう言ったイゾウは本当に楽しそうで やはりこの男も根っからの海賊なのだと感じた。 「…そうだねい」 信じきるには不十分だが 間違いなく俺の好奇心も騒ぎ始めていた。 (…あった) (これが"本当"だったら…) next.. PREV NEXT |