始めは小さな帆船の模型だった。

幼い頃大切にしていたそれが壊れてしまい、泣いていた私に笑いかけ
繊細な手付きで直してくれた。
そんな彼がまるで魔法使いのように見えて、興奮気味にお礼を言えば
豪快に笑いながら節榑立った手で頭を撫でられた。

あれから十何年経っただろうか。
尊敬と憧れに、いつしか恋情まで加わった。



「タイルストンさん」
「おう、***」



ガレーラに顔を出すと昔と変わらずタイルストンさんは笑顔で私を迎えてくれる。



「今、休憩中?差し入れ持ってきたんだけど」
「おお、いつもすまん。ありがとよ」



包みを渡して彼が腰掛ける木材に自分も座った。



「今日は自信作なの」
「***の飯はいつもうめぇからなァ、楽しみだ!」



ニコニコと包みを開ける姿は年上なのに可愛いと思う。

仕事に真摯で、強くて、
でも豪快な笑い方とか、大声出して煩いとパウリーさんに怒られてるところとか

もう、タイルストンさんの全てが大好きだ。



「でも差し入れは嬉しいが、無理はすんなよ?」
「してないよ。タイルストンさんが好きだから全然苦じゃないの」



それは偽りようのない私の本心なのに、こう言うと彼は決まって困ったように笑う。
そしてやんわりと私を拒絶するのだ。



「そういうこたァ若ぇ野郎に言ってやれ」



若い人に言ってどうするの?
私が好きなのはタイルストンさんなのに。

優しい彼は、その優しさ故に私の胸を抉る。
受け入れてもらえない
だけどハッキリと突き放すこともない。



「…今日も終わりはいつも通り?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあさ、飲み行こ!私、スッゴく飲みたい気分!」



さっきの嫌な雰囲気を払拭するように努めて明るく言えば、彼も普段と同じ豪快に笑って了承してくれた。


ねぇタイルストンさん。
あれから十数年経ったよ。
私が貴方を好きだと言い始めてから七年になるの。




(ねぇ、そろそろ)
(私は次に進まなきゃいけないのかな)


next...


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