走って走って、このモヤモヤが吹っ飛んでくれたらいいと思った。

特にどこに向かうでもなく足を動かして、周りをあまり見ていなかったせいか、誰かと軽く肩がぶつかった。



「あ…す、すみません!」
「痛ってーなー…、ん?」



慌てて謝ると如何にもガラの悪い男性。
最初は苛立った口調だったけど、なぜか私の顔を覗き込んできた。



「あの…ごめんなさい…」
「アンタ、有名な***チャンだろ?」



(有名…?)

知らない人に名前を呼ばれて焦る。



「そうです、けど…」



答えると彼は頭のてっぺんから足の先までジロジロと見てきた。
彼からはお酒の匂いがする。

一通り見てニヤニヤ笑ったと思えば、腕を掴まれ恐くなった。



「噂通り、キレーだなァ。ぶつかった詫び、してもらおうか」



キモチ悪い。
手を離そうともがいてはみるけど、彼はびくともしない。
助けを呼ぼうと周りを見たが人通りはなく、更に恐怖を煽る。


(気付かない内に裏町に入っちゃってたんだ…)



「放して…っ」
「誰も来ねーよ、***チャン?」



歴然とした力の差。
私は抵抗しながら、諦めてしまった。


(頭に浮かんだのは)
(やっぱりあの人だった)

next..


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