いつも通りのはずだった。
痛いくらいに感情を真っ直ぐぶつけてくる***をかわして、上手く宥めたつもりでいた。



「遅いな、***」
「…ルル」



作業する手を休め顔を上げると、金槌を持ったルルがいた。
目線はいつも***が来る方向を向いている。



「そろそろ昼だろう、今日は来ないのか?」
「さぁ、アイツも忙しいんじゃないか?」



今までだって、来ない日がなかったわけじゃない。
でも、そんな時は前日か朝には行けないと報告があったのに…
心配は勿論、何故来ないと少しの苛立ち。


近付きすぎないように壁を作るのは俺のクセに
まったく身勝手だと、我ながら嫌気がさす。



「いつまで逃げる気だ?」



ふいに掛けられたらルルの言葉に反応してしまう。



「…何のことだ」
「***のことに決まってるだろう」



コイツは気付いているだろう、俺の考えを。



「逃げてはいない」
「そうか?」



ルルは俺の隣に腰掛け、俺が縫っていた帆の縫い目を弄る。
解けてしまわないか、俺は少し目配せした。



「***は、色んな奴が狙ってるぞ」
「…知ってる」



いつの間にか、***は美しく成長していた。
おもちゃが壊れて泣きじゃくっていたガキが、今じゃウォーターセブンで広く知られる美女。



「受け入れられないなら、ちゃんと突き放してやれ」



分かってる。
言われなくても分かってるんだ。

これだけ年が離れてる。
きっと***の"好き"は憧れを勘違いしている。

それでも手放せないのは、俺も***に惹かれているからなのだ。



「タイルストン、俺は自分の気持ちに正直なのもいいと思うがな」



ルルはそれだけ残し、持ち場へ戻っていく。



「そんな、アイツの未来を奪うような真似…出来るわけなかろう」



小さく呟いた声は、誰にも届くことなく消えた。



(思いのまま動けば)
(きっと俺は、お前を手放せなくなる)


next..


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