2食目


「名前…最近お弁当毎日重箱だね…」



友人の言葉にビクッとする。

そう。伊達工の彼を見てからというもの、調理意欲が衰えないのだ。
お弁当を作っていると、あの美味しそうに頬張る姿が浮かんできて…気付いたら大量のご飯が出来上がっている。

そして家だけじゃ処理しきれず学校の友人に手伝ってもらっている始末…

「名前の料理、美味しいからいいんだけど!」

なんて嬉しいこと言ってくれるけど…
あんまり良くないよなー…あの人に食べてほしい!っていうフラストレーションが私の中で渦巻いて、上手く消化できていない証拠だ。


その日も部活を終え、このモヤモヤをどうするか考えて帰路についていた。



「腹減ったなー」

「!」



後ろから彼の声が聞こえ、振り向く。
そこにはここ数日頭から離れてくれなかったあの人の姿。

もう、ダメ元で行くしかないんじゃない?


後々考えると、この時の私の行動力は凄かったと思う。



「あ、あの!!」





* * * * *

※鎌先視点



「あ、あの!!」



部活帰り、前を歩いていた女の子が振り返って声をかけてきた。

あの制服…近くの女子校のやつだなー…

ぼんやりそんなことを考えていると、必死、という表現がぴったりなくらいこっちを真っ直ぐ見て口を開いた。



「ちょっと、お話があるんですが…!」



あー…告白かな…、てことは二口か。
コイツ生意気だけど顔はいいからなぁ。女子ウケする顔っつーの?
いいよなぁ、イケメンはよ!!



「金髪さん…!」



空気が止まった気がした。

いやいや、二口は金髪じゃねぇし。
茂庭…は黒だな。
金髪、て、

全員が一斉に俺を見る。



「お、れ…?」



信じられない気持ちで自身を指差すと女の子はコクコクと何度も頷いた。



「あ、えーと…みんな先帰っててくれ…」

「お、おぅ…」



ご指名頂いた俺はみんなの視線を一身に集めつつ彼女の元へ歩を進めた。

みんなが俺らを気にしながら去っていく。

居心地悪そうにする彼女は、真っ正面に立つと更に小さい。



「すみません…お疲れのところ…」

「いや、大丈夫だ…とりあえず座るか…」



ぎこちなく丁度目の前だった公園に入りベンチに腰掛けた。

ちょこん、と間を空けて座る彼女をチラ見する。
うわ、指細っせぇ。あんなんブロックしたら折れんじゃねーの。
色白いな、あんま外出ねーのか?
何かいい匂いするし。香水みたくキツくない、甘い匂いだ。



「そ、その…単刀直入に言いますね」

「おぉ…」



きゅ、と小さな手が拳を作った。



「私が作ったお弁当食べてください!!!」





……



「…は?」



予想していなかった言葉に上手く反応できなかった。

いや、え?弁当?



「その…私料理が凄く好きなんですけど…」



つまりこうだ。
作った料理を食べてほしいけど友達も家族も少食で悩んでたところに部活帰りで空腹の俺を見つけ、コンビニで買い食いしてる姿を見て以来気になり仕方がない、と。

調理意欲が止まらなくて最近友達にお昼ご飯食べるの手伝ってもらってるんです!と見せられた重箱は小学校の運動会か正月のお節でしか見ないようなガチの重箱だった。



「あー…弁当なぁ…」



正直、(恥ずかしいことに)告白だと思ってたから予想外なことを言われたことと、内容が突拍子もなさすぎて困惑している。



「あの、急にこんなこと言われて困るのも重々分かってます…すみません」

「いや…」



どうするのが正解なんだよ、と口籠もっていると
ハッと何かを思い出したように彼女は鞄の中を漁り出した。



「これ!今部活で作ってきたんです!」



取り出されたタッパーを開けると中には肉巻きおにぎりが。



「これ、アンタが作ったのか?」

「はい!さっき調理部で!」

「すげ…美味そ…」



家まで我慢できずコンビニに寄ろうかと思ってたくらいだ。
ぐぅ、と腹が鳴る。



「お願いを聞いてもらえるか、参考に食べてください!」



毒なんか盛らないだろうし、何より腹が減ってる。
いただきます、と小さく言って一つかぶりついた。

……



「…うまっ!」



店に売れるやつじゃん!
形も綺麗だし、もう絡んでるタレが絶品だった。



「これ、本当にアンタが作ったんだよな?!」

「は、はい」

「すげーな!!まじでうめぇ!!」



本当に美味かったから素直に褒めると、彼女はへにゃりと嬉しそうに笑った。



「えへ、ありがとうございます」



結局2つを平らげ、渡されたウェットティッシュで手と口周りを拭く。

…こんな美味いのが食えるなんて…しかも作ってくれるのはこんな可愛い女の子だ。



「えーと…ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」

「その…ぜひとも、よろしくお願いします…」



どう言うのが正解か分からなかったから、とりあえずそう言ってみると
彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべて「はい!」と元気よく返事した。


斯くして、俺の胃袋はガッツリ鷲掴みされたのだった。


(あ、私1年の苗字名前といいます)
(2年、鎌先靖志だ…よろしく)







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