「…***はまだ帰らねぇのか」



執務室に響くスモーカーの低い声。

いつもならば恐る恐る返事する部下たちだが、今日は怪訝そうな顔で答える。



「***さんたちに与えられた調査の期間は1ヶ月です」
「あぁ」
「…今日は出発してから3日目です」



初日から問われる「***はまだか」にいい加減みんな呆れていたのだ。
スモーカーが怖くてとても口には出せないが、全員が心の中でこう思っていた。

『大丈夫かこの人』

そんな部下の雰囲気に気付かず当のスモーカーは調査の命令を下した上司の文句を呟く。

そしてイライラに比例し積み上がっていく葉巻の灰。
時折鳴る舌打ち。

不機嫌なスモーカーこそ怖いものはない、と知る彼らは早く1ヶ月経ってくれと祈る。


と、そこに軽快なノックの音。
スモーカーが眉間の皺をそのままに入れと応えると
顔を覗かせたのは今まさに話題に出ていた***だった。



「皆さん只今帰りました!」
「***…?!」



スモーカー含め全員が目を丸くする中、彼女はニコニコと楽しそうに笑う。



「***さん、調査は…?!」
「うん、頑張って終わらせてきた!」



満面の笑みで彼女はそう返し、くるり、スモーカーへと向き直った。



「ただいまです、スモーカーさん」
「…早かったな」



つい先程まで***はまだかとそわそわしていたくせに、それをおくびにも出さず素っ気ない態度。



「大丈夫です、仕事は抜かりなくやってきましたから!」
「…ならいい」



相変わらず仏頂面だが、分かる人には分かる。
彼は機嫌がいい、と。



「それに…」



上機嫌なスモーカーに***は耳打ち。



「…?!」
「ふふ、それじゃあ報告書書いてきますねー」



彼女が何を言ったのか
それは2人しか分からない。

しかし僅かに染まるスモーカーの頬に、全員が予想をつけ溜め息をついたのだった。



(スモーカーさん、私の帰りを待っていたでしょう?)


end.



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