「コーヒーでも飲むか?」
穏やかな気候、敵襲もない。
極めて長閑な航海だ。
まぁそんな日もたまにはいいかな、とシャチは思う。
何か飲みながら、***とおしゃべりに興ずるのも良し。
先程の問いに笑顔で頷いた彼女の為にコーヒーを入れる。
自分の分には角砂糖を一個、***の分には角砂糖二個とミルクをたっぷり。
カップを手に戻るとまたまた愛らしい笑みで***はありがとう、とシャチを迎えた。
「今日はヒマだねぇ〜」
「だな。休息日ってとこか」
そんな会話をしつつ、***はコーヒーに口を付ける。
一口飲み、苦そうな表情。
その顔を見て、シャチはだらしなく頬を緩ませた。
「(砂糖二個も入れて、コーヒーとミルクは1:9までしたのに…かわいいなぁ)」
シャチが密かに悶えていることに気付かない***は彼を見つめて話をする。
「苦いー…」
「それ以上薄めたらコーヒー無くなるぞ?」
「む、それはいや」
お子様舌が嫌な彼女は徐々にコーヒーに慣れる予定らしい。
それでもなお舌を出し顰めっ面な***にシャチはいいことを思い付いた、と笑顔を向けた。
「***、苦いの中和してやろっか」
「ほんと?!」
無邪気な***の後頭部に手を回し、引き寄せる。
驚いて半開きになった唇に自分のそれを押し当て、すかさず舌を差し入れた。
逃げる小さな舌に自らのを絡め、吸い付く。
「んぅ、ふ…っ」
隙間から漏れる甘い吐息にシャチは興奮した。
薄く目を開ければ顔を真っ赤にし、必死に応える恋人。
呼吸がつらくなったらしく胸を軽く叩かれたので
名残惜しげに彼女の舌を一舐めして解放した。
「…ど?」
にやける口元を隠しつつ聞くと、***は恨めしげに涙目で睨んだ。
「苦いよ、バカシャチ」
シャチもコーヒーを飲んでいたのだから当然だけれど。
「…でも、嫌いじゃない」
「てことは?」
「もー一回」
その一言に、彼は再び唇を落としたのだった。
(…ここ、食堂なんだけどな)
(ベポ。東の海に恋は盲目、という諺があるらしいぞ)
end.
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