優しさで溶かして
「最悪だ…」
呟いた言葉は誰にも聞かれることはない。
目の前の真っ赤に染まった下着を見て項垂れた。
せっかく久しぶりに祐輔くんとデートだったのに。
ズキズキと痛む下腹部を抑えてスマホを手に取った。
申し訳ないけど体調が悪くて今日はお出掛けなしで、埋め合わせは今度…という内容をLINEで送り、溜息を一つ。
ソッコーで既読がついて、心配の言葉とドタキャンは気にするなと返事がきた。
「優しい…好き…」
グッと会いたい気持ちが増したけど、普段から生理痛が重く貧血で倒れることもある。
万が一無理して倒れたらそれこそ祐輔くんに申し訳なさすぎる。
もう一度ごめんね、と返信してスマホを置いた。
こういう時はテンションを上げる。
お気に入りのもこもこルームウェアに着替えた。
キッチンに行ってお湯を沸かし、ハーブティーを淹れる。
ハーブティーを飲みながらブランケットにくるまって、録り溜めてたドラマでも観よう。
* * * * *
ドラマを1本見終えたところで下腹部の痛みが増してきた気がした。
薬を飲んで少し横になろうかな…と立ち上がるとタイミング良く鳴るインターホン。
何か荷物届く予定あったかな…?
インターホンに付いてるカメラの画像を確認すると、そこに居たのは祐輔くんだった。
慌てて小走りで玄関に向かい、軽く髪を手櫛で整えてドアを開く。
「祐輔くん…?!」
「おう。体調大丈夫か?」
ポンポン、優しく頭を撫でて、その長身を屈めて顔を覗いてくる。
それだけで胸がきゅぅぅぅんってなった。
「顔色悪ぃな…」
「祐輔くん…」
「ん?」
「好き…」
そのまま抱き着くと、祐輔くんは面白い程にわたわたしだした。
どうした?!熱あんのか?!だって。かわいい。
気持ち的に弱ってるのか、抱き着いたまま上がってもらった。
「しんどそうだな…」
祐輔くんに撫でられるの気持ちいい。
大きな手に擦り寄ると撫でる動きが止まった。
「…?」
「っ、あー…熱!測るか?!」
体温計どこだ?と立ち上がるけど、測る必要はない。
「祐輔くん」
「ん?」
「……生理痛なの」
付き合ってるし、月一でこうなるなら言っといてもいいかな、って。
数秒間キョトンとした後、ブワッと赤くなった祐輔くんはわたわたしだして、何か申し訳なくなった。
「ごめん、私重くて…多分毎月こうなるから言っといた方がいいかなって…」
「あぁあ!あ、おう!」
何が要る?!嶋田マート寄ったんだけどよ!
ビニール袋の中身をひっくり返す勢いで色々出す彼は、多分どうしたらいいか分かんないんだろうな。
それにしても本当に色々買ってきてくれたんだ…
続々出される物を眺めていると、有難い物が出てきた。
「これ、嬉しい」
「え?カイロ?」
「うん、温めた方が痛み引くから」
ぱり、ビニールを破くと祐輔くんは何かを考えているようだった。
「どうしたの?」
「…いや、スポドリとかゼリーとか買い込んでたらよ、嶋田がカイロも買ってけって言ったから…」
嶋田くん…女性のこと分かりすぎじゃない?
恐ろしい…
まぁでも助かったしいいや。
下腹部と腰に貼って、一息。
眉を下げて伺うように覗き込んでくる祐輔くんに抱き着いた。
「…ごめんね」
「謝ることじゃねーべ、俺にはどんだけ痛いとかは分かんねぇけど…キツいんだろ?」
私を抱き締めたままゆっくりソファーに座る。
もぞもぞと動いて横抱きにされると何だか安心した。
「デートはなくなっちゃったけど、祐輔くんに会いたかったから来てくれて嬉しい…」
「…お前、そーゆーことサラッと言うなよ…」
見上げた彼の顔は真っ赤っかになっていて、また胸がきゅぅんってした。
「…名前」
「んぅ?」
「何かできることあるか?」
十分色々してもらってるのになぁ。
本当に大切にしてくれる。
「じゃあ、お腹撫でて」
大好きな大きい手を下腹部に導けば、恐る恐るその手が動く。
「これで合ってるか?」
「うん、すっごく楽になった」
さっきまで刺すような痛みがあったのに今は落ち着いてる。気分もいい。
「体勢キツくないか?」
「全然。むしろ楽…」
「ん、じゃあこのまま撫でとくから寝れるなら寝とけ」
「うん…」
祐輔くんのポカポカした体温と撫でてくれる手のお陰で眠気がきた。
お言葉に甘えて少し寝てしまおう。
「…一時間したら起こして…」
「わーった。おやすみ」
「おやすみ…」
生理痛治まったら今度は私が祐輔くんを甘やかしてあげたいな。
好きな物作ってあげよう。
そんな幸せな気分で、私は眠りについた。
END
おまけの嶋田マート
「え、名前ちゃん体調悪いの」
「おー、何か付き合う前から月一くらいで体調崩すみたいでよー」
「……」
「…嶋田?」
「これ、一応買ってけ」
「は?カイロ?」
「要るかもしんねーから」
「おぉ…?」
END
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