再会
時刻は20:00。
この間出会った時間から考えてこのくらいに終わるかな?と目星をつけて烏野高校の門で待ち伏せしていた。
部活生だろう子達がチラチラ私を見ながら帰宅していく。
違うよー不審者ではないよー。
さっきまでバシンバシンと響いていたボールの音は止んでいるのでもうそろそろかなぁ。
手持ち無沙汰で渡す予定の袋を弄っていると、「うおおおお」と何やら逞しい声を上げながら2人の男の子が出てきた。
黒いジャージ。この前救世主さんが着てたのと同じだ。
すると2人も他の子達同様こちらに気付いた。
バレー部の人かも。聞いてみようかな…と口を開いたところで
「「うおおおおぉあぁぁぁぁぁぁ!」」
再び逞しい声を上げ門の中へ戻っていった。
え、まさか先生とかに「不審者が居ます!」とか言いに行ったの?!
それはちょっと待って!!!
慌てて2人の背中を追いかけた。
* * * * *
「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」
「こら!田中!西谷!うるさい!」
腹減った!坂ノ下行こうぜ!と部活後だというのに元気よく走っていったはずの田中と西谷が戻ってきた。
妙な雄叫びを上げていることを大地に怒られる。
「でも大地さん!」
「門のとこに!!すっげー可愛いオネエサン居るんすよ!!」
興奮気味に話す2人の顔は真っ赤っかだ。
「だとしても何で戻ってーー」
「あ、あの!」
高めの、可愛い声。
隣に居るスガがちっちゃい声で「うわ、マジで可愛い…」と呟く。
「私、烏野のバレー部で探してる人が居て、決して怪しいものでは…」
眉を八の字に下げて必死に話すその人とパチリ目が合った。
「あ」
「っ、よかった!会えたぁぁぁ!」
こないだの、ナンパされてた人。
ちょこちょこと小走りで俺の元までくる。
西谷は「旭さん…?」なんてキラキラした目で見てくるし、田中は何故か白目で合掌してる。
他のみんなも「旭の知り合い…?」とざわついてる。
「この間は助けていただきありがとうございました!」
深々とお辞儀をする彼女にハッと我に返った。
「いえいえ、大したことはしてませんから!」
「あの、本当に助かったんです…で、お礼がしたくて、その、これ…」
差し出された袋には見慣れたスポーツ店のロゴ。
「ほんの気持ちですけど…受け取ってください」
「え、あの…あ、ありがとうございます…」
無碍にするのもな、と戸惑いながらも受け取ればパァっと嬉しそうに笑った。
…間違いなく可愛い。
完全に周りは置いてけぼりになっていた空気の中、西谷の一言が響く。
「旭さんの彼女っスか!!!」
「いや違うよ?!?!」
何で今のやり取りで、か…彼女、になるんだよ!!
あわあわしてたら、彼女は西谷に向き直り微笑んだ。
…西谷、顔真っ赤。
「突然ごめんなさい。先日困っていたところをこちらの…旭さん?に助けて頂いたのでお礼を言いに来たんです」
「あ、あ、な、なるほど!さっすが旭さん!」
綺麗な人に弱い西谷は吃りまくりだ。
「あ、でもよく分かりましたね…烏野のバレー部って」
ふと思ったことを聞けば、くるんっと振り返って今度は俺に微笑む。
「ジャージ」
「あ、」
「そのジャージのおかげです」
そういやあの時も部活終わりだったな、なんて思い出す。
嬉しそうに笑う彼女は置いてけぼりになってしまった大地やスガ達に向き直り軽く頭を下げた。
「突然すみません、お時間取らせてしまって」
「え、あぁ、いえ、こちらこそ、うちの旭がどうも」
主将らしく返す大地もほんのり頬が赤い。
「旭さんも、お疲れのところごめんなさい。それじゃあ私はこれで」
「え」
「本当にありがとうございました。バレー、頑張ってください」
丁寧に挨拶をした彼女は踵を返し去っていこうとする。
え、え、どうしよう。
オロオロする俺の背中をデカい音がする程叩いたのはスガ。
「ほら、あんだけ可愛い人なら1人で帰すのも危ねーべ?」
「あ、ごめ、俺、」
「はーいお疲れ様でしたー」
大地とスガに背中を押され彼女を追う。
数メートルだけど、たかがこの距離で俺の心臓はばくばくいってる。
「あの!」
振り返って俺を見上げる彼女。
真ん丸な目が俺を真っ直ぐ見ていて、目が合うだけで照れてしまう。
「…送ります」
「…え?!いやいや!大丈夫ですよ?!」
「絡まれるの、この前が初めてじゃないですよね?」
何となくそうだろうな、と思ったことを聞けば図星だったのかぐっと口を結んだ。
「…そんなに隙があるように見える?」
不本意なのか口を尖らせて上目遣いに俺を見てくる姿にドキリとする。
「いえ、そうじゃなくて…か、可愛い、から…そうかなって…」
本心を言えば俺の返しが意外だったのか、元から丸い目を更に丸くしている。
「…褒めても何も出ないですよ!」
「や、本当に…」
「……」
ヤバい、軽く見られたかな…
黙った彼女に不安になっていると、すっと握った手を出された。
何か渡されるみたいで分からないけどとりあえず手のひらを出すと何かが乗った。
「…飴?」
「嬉しいこと言ってくれたお礼です」
……
可愛い、って言ったお礼…?
「、ふっ、あはは!」
「え、何で笑うの?!」
「や、だって、何も出ないって言ったけど飴出てきたし!」
笑う俺を見て、彼女も笑い出す。
「…っあー…、ほんと、送ります。遅い時間に女性一人を歩かせるのも気が引けますし」
一頻り笑った後、そう言うと申し訳なさそうに見上げてくる。
…やっぱり一人で歩かせるのは心配だ…
「旭さん、家、どこら辺ですか?」
嘘つくのも悪いから正直に教えると、彼女の家は俺の家から10分ほど先の所だった。
「あっじゃあ旭さんの家まで!」
「いやそれじゃ俺が送られてるみたいじゃないですか」
「でも…部活で疲れてるのに」
「大した距離じゃないですから」
食い下がると漸く頷いてくれてホッと一安心。
じゃあ行こうか、としたところでふと彼女のことを何も知らないことに気付く。
「えーと、あ、お名前は…」
「あ、苗字名前です!」
「苗字さん…俺、東峰旭です」
「東峰…旭くん!」
さん付けだったのがくん、になって
満面の笑みで呼ぶ苗字さんにドキドキと胸が鳴る。
これは、可愛い人に笑顔を向けられながら名前を呼ばれたことによる不可抗力だ。
「っ、じゃあ苗字さん、行きましょうか」
早鐘を打つ心臓を悟られないように、慌てて帰路へと足を向けた。
(これから何かが始まる、だなんて)
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