かつてこんなに誰かを好きになるなんてなくて、いつだって俺は戸惑ってばかりだ。
「…名前」
「なぁに?」
「…っ、何でもない…」
思えば告白だってそうだ。
なかなか言い出せず、声をかけては世間話。
俺の煮え切らない態度に焦れた仲間にはだいぶ世話になった。
伊作にヘタレと言われ
仙蔵に毒を吐かれ
長次に背中を押され
小平太に(物理的に)背中を押され
文次郎にさえ激励された。
…小平太によって付けられた背中の痣はまだ少し残っている。
やっとのことで告白した俺に名前は嬉しそうに頷いてくれた。
そして晴れて付き合うことになったのだが、やっぱり先には進めない。
この白く柔らかい手を握って大丈夫かとか、細い身体を抱きしめていいのかとか、潤い紅く艶めく唇に触れていいのか…など。
名前が本当に好きだから、なかなか進めないんだ。
大事に大事にしたい。
「留三郎」
「ん?」
「大事にしてくれてありがと」
気付かれていたことに慌てて顔を上げると、頬に柔らかい感触。
そして名前の照れたような笑顔。
「でも、たまには強引にきてくれないと、私からいっちゃうよ?」
「〜〜っ!」
我慢出来ず、俺が思いっきり名前を抱きしめるまであと数秒。
(名前っ、大好きだー!)
(私も大好きっ!)
END