「文次郎、大好き」
「…あぁ」
名前は感情全てをありのまま伝えてくる。
忍としては如何なものかと思うが、それは可愛らしい。
当然怒りもぶつけてくるが、其処らの面倒な女のように「察してくれ」と押し付けてくるものよりずっといい。
むしろその方が俺には合っている。
「…文次郎は?」
「解るだろう」
「でも、言葉にしてほしいの!」
ぷく、と膨らませた頬。
突ついてやりたいが、それをやっても更に機嫌を損ねてしまう。
「ねぇってばー、私、文次郎が大好きなの!文次郎は?」
「…俺もだ」
ちゃんと好きって言ってほしい、と文句を言う名前。
仙蔵辺りならさらりと言ってのけるのだろうか。
しかし残念ながら俺は奴とは違う。
男がそんな言葉、軽々しく吐けるか!
結局双方折れないまま、名前は疲れたのか寝てしまった。
「…風邪ひくぞ」
そっと頬に触れると、温もりを求めてか、手に擦り寄ってくる。
「…愛しいな…」
ふっくらした彼女の唇に自らのそれを押し当て呟く。
俺は知っての通り、堅い男だから。
お前の望むような甘ったるい言葉はくれてやれない。
…だが、ちゃんと想っているから。
それをしっかり態度で示すから。
俺の側で笑っていてくれよ。
(ずっと一緒に居てほしい)
END