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長ちゃんはスゴく頭がいいと思う。
こっちの慣れない文字だって直ぐ理解してしまったし、家電や道具等もさっさと扱えるようになった。
多分外に出たって支障はないくらいの知識も付いてる。

…けど、記憶力がいいのだって理解が早いのだって、忍者になる為に身に付けたと聞いて少し悲しくなった。

さっきまで読書していた長ちゃんは体が鈍るといけないと筋トレを始めた。
まだ15歳なのに、甘えもせず世の中を生き抜く術を磨いているのだ。


夜中もそうだ。
深夜にトイレに行きたくなった私が起き上がると、必ず長ちゃんも目を覚ます。



「ごめんね、起こした?」
「いや…今日は眠りが浅くて」



初めて夜中に起きた時はそう言っていたけど、些細な物音や気配で起きられるように訓練しているのだと解った。


解ってる。
長ちゃんの生きる時代が、長ちゃんの目指すものがどれだけ過酷かってことは。

だけど、現代はそんな心配はまず要らない。
私の側でくらい、ぐっすり寝て休んでほしい…

なんて、勝手な願いかな?





むくり。
今の時刻は深夜2時半。

隣で寝る長ちゃんに目を向けると、目は瞑っているけど多分起きてるはず。



「…長ちゃん」



小さな、ほんとに小さな声で呼び掛けてみた。



「…名前…どうした?」



長ちゃんの目が開いて、そう返される。
…やっぱり起きてた。



「長ちゃん、眠り浅いよね」
「まぁ…そう訓練したしな…」



私はもう一度横になり、長ちゃんと向かい合わせになった。



「気配に気付くのも、きっと忍者になるには大切なことだと思うの」
「そうだな…」
「でもね、ここには、私しか居ない。敵なんか来ないよ」
「…そうだな…」



私が思うことは、ただのエゴでしかないけど。



「私の前でだけでも、ぐっすり眠ってほしいって思うのは…我儘かな…」



そう思わずにはいられないの。

長ちゃんの傷がある温かい手に自分の手を重ねた。



「…忍者には、三禁というものがあるんだ…」



ポツリポツリと長ちゃんが話し始めた。



「酒、欲、色の三つなんだが…」



長ちゃんが来て、多少自分でも忍者について調べた。
三禁のことも、三病についても知った。



「…色、には優しさも含まれる…私はそういう世界で生きることを決めたんだ…」



優しさも駄目なんて、厳し過ぎると
単純な私は思ってしまう。



「長ちゃんは忍者を目指してて…忍者には三禁というものがある。それは解ってるつもりなの」
「…あぁ…」
「でも、良くも悪くも長ちゃんはまだ"たまご"なんでしょ?だったら…そういう厳しい世界を忘れられる時くらいあってもいいんじゃないかなぁって」



握った長ちゃんの手を優しく、今度は両手で包んだ。



「…その休める場所が、私の側だったらなぁって、思うよ」



真っ直ぐ見つめれば、長ちゃんは目を真ん丸くした。
そしてその後ゆっくり息を吐き出したかと思うと目を閉じてしまった。



「長ちゃん…?」
「…名前には…敵わんな…」
「え?」



長ちゃんが言った意味はよく解らなかったけど、それ以降長ちゃんが何かを喋ることはなく
ただ静かな寝息が聞こえていた。



「…おやすみ長ちゃん」



少し大きめな声で言ったけど
長ちゃんは目を開けることもなく、何も返ってはこなかった。


(おやすみなさい、いい夢を)


next…









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