16 「じゃあ行くけど、ほんっとに大丈夫?」 「大丈夫だから…行って来い…」 長ちゃんはちょっと呆れた顔をしている。 今から大学に行かなければならない。 しかし心配で仕方ない…! 「やっぱりサボろうかな…」 「それは駄目だ」 「うぅ…」 家のことも家電のことも長ちゃんは飲み込みが早かったし、大丈夫だとは思うけど やっぱり一人にさせることは不安でならないのだ。 「ほら、遅刻する…」 「ん…行って来ます…何かあったら電話してね!!」 「わかった…行ってらっしゃい」 後ろ髪を引かれつつも家を出た。 携帯は残念ながら一つしか持ってないので長ちゃんに渡し、何かあったらいつも一緒に居る友人と大学の番号に掛けるよう言った。 * * * * * 「帰りたい…」 小さく呟いた私に友人が苦笑い。 「名前、今日上の空だねぇ」 「ね。家に来てる親戚の子が気になる?」 「んー…」 長ちゃんのことは親戚の子と言ってある。 学食でうだうだしていると友人は私の口にぐいぐいと唐揚げを押し込む。 もぐもぐ、美味い。 「唐揚げ食べて元気出して〜」 「元気はあるけど気になるんだよ〜…ね、電話きてないよね?」 「ん…きてないね」 「そっかぁ〜」 今長ちゃん何やってるんだろ。 本読んでるかな。 「電話貸そっか」 「ほ?」 「その子が名前の携帯持ってるんでしょ?掛ければ?」 「いーの?」 「どーぞ」 さすが我が友! 早速電話帳から私の番号を呼び出し、掛ける。 しかし何故私の名前の横に犬の絵文字が付けられているのか… 「もしもし!長ちゃん?」 『…名前?』 「そう!大丈夫?何も困ったこととかない?」 『大丈夫だ…凄いな、本当にこれで会話が出来るのか…』 とりあえず何もなさそうだ。 一安心。 『そうだ、冷蔵庫の中身、使ってもいいか…?』 「え?うん、いいよ!」 『ありがとう』 「んーん…私、これからまた授業で、多分帰るのは夕方になる」 『そうか…』 「なるべく早く帰るね」 『あぁ…授業、頑張れ』 「…ん!ありがと、長ちゃん!」 ほわほわした気分で通話を切ると、友人は笑っていた。 「?携帯ありがと」 「いえいえ…ほんと好きなんだね、?長ちゃん?」 電話する私の様子で解ったらしい。 「うん、大好き!」 さて、長ちゃんに頑張れって言われたし!頑張る! * * * * * 午後の授業もしっかり受け、誰よりも早く帰路についた。 「ただいま!」 「おかえり…」 おぉ…一人暮らしだったマンションに「ただいま」って言うの新鮮…! 迎えてくれた長ちゃんは至って普通で、何事もなかったことを安心した。 「うわあぁん長ちゃん!会いたかったー!!」 靴を脱いで抱きついてやった。 いつもはやんわり拒否する長ちゃんだけど、今日は受け入れてくれる。 あぁ…程よい筋肉…そして胸デカイ… 「もー、今日ずっとそわそわしちゃった!」 「…ふ、大袈裟だ…」 あ、ほんの少しだけど、笑った… 「だってー…」 「…心配してくれて、ありがとう…」 あったかい手で、頭を撫でてくれる。 気持ちいい… 心配したのも事実。 でもそれ以外に、私が長ちゃんの側に居たかったのも事実なのだ。 突然「室町」という遥か昔の時代から私の元へやってきた長ちゃん。 そんな彼女は忍者のたまごだという現代からしたら衝撃的な肩書きを持ちながら、とても温かい人だった。 側に居て心地良い。 そんな彼女に私が懐かない訳がなくて。 いつ元の時代へ戻るかも分からない長ちゃんと少しでも一緒に居たいと思ってしまうのだ。 …そんなこと、本人にはとても言えないけど。 「名前」 「うん?」 「今日は時間があったから…夕餉を作ってみたんだ…」 「え?長ちゃんの手料理?」 道理でいい匂いがする訳だ! 「…手、洗ってこい…」 「うん!ありがと!」 とりあえず、長ちゃんが居る間はしっかり楽しまなきゃね! (焼魚に味噌汁、煮物…) (口に合うといいが…) (っ美味しい!) (よかった…) (長ちゃんの女子力パネェ…!) next… |