06 名前はにこにこと笑顔を絶やさない女性だと思う。 もしかしたら私を不安にさせないためかもしれないが… まさか年上だと思わなかった彼女は、笑いながら敬称と敬語はやめてくれと言った。 一緒に生活するのだから、せっかくなら親しくしたいと。 「おじや作ったんだけど…食べれる?」 聞かれれば、答える前に腹の虫が鳴く。 そういえば目を覚ました時からいい匂いがしていた。 「……」 「あは、とりあえず持ってくるね!」 部屋を出た名前は暫くしてから小さな土鍋とレンゲを盆に乗せて戻った。 卵とネギで彩りも良く、出汁の匂いが食欲をそそる。 直ぐにでも食べたいが、私も忍たまだ。 どうしても疑うことから始めてしまう。 ないだろうと思いながら、毒の可能性を考える。 「……」 「あー…そうだよね…」 まさか命の恩人に毒の有無を聞く訳にもいかず、困る私に名前はそう呟くと再び席を外した。 戻ってきた彼女は新しいレンゲを持っていて、徐に雑炊に突っ込むと息を吹きかけて冷まし、自ら食した。 「毒とか、入ってないよ!」 「……!」 にっこりと言われた言葉に、何も返すことが出来なかった。 気付いていたのか… 「レンゲが怪しいなら洗ってもいいし!」 「いや…いただきます…」 そして頂いた雑炊は身体に沁み渡るようで、とても美味かった。 「…美味い」 「ほんと?よかったー」 「…すまない」 私の謝罪に一瞬だけキョトンとした彼女は、直ぐに優しく笑った。 「すごいよ、長子ちゃんは」 食べる手を止めて彼女を見る。 「疑うことは自己嫌悪に陥る。私だったら其れに潰されちゃうと思うの」 「……」 「でも長子ちゃんたちは疑うことをしなきゃいけない…まだ私より若いのに、ね」 私を見る名前の目は優しい。 「悪いとか思わないで。私は長子ちゃんの常識を受け入れる」 「名前…」 目を見れば分かる。 くノ一などとは違う、純粋な瞳だ。 「…ありがとう…」 私の礼に、彼女はまたにっこりと笑う。 「どう致しまして!」 まだ出会ってから数十分。 (私が眠っていた時間を引いてだが) 私は早くも心を許し始めている自分に気付いた。 彼女の笑顔は温かい。 まるで太陽のようだとも思う。 太陽から同室の男を思い出したが、少し違うな。 小平太は太陽そのものだが、彼女は陽だまりといったところだろうか。 2人がもし会ったなら、結構ウマが合うかもしれないな。 そんなことを考えながら、雑炊を味わった。 (あぁ、温かいなぁ…) next… |