05 「…にんじゃ」 目の前の女性は固まっている。 何より、先程から私たちの会話は噛み合ってない気がするのだ。 「…あの、私、平成のこの世に忍者は居ないと思ってて…」 「平成?」 私が言うと、彼女はサァっと青ざめた。 「…今、何時代ですか?」 「…室町ですが」 妙な質問をしてきたと思えば、私の答えに動揺しながら「やっぱり」とか呟いている。 一体何なのだろうか。 暫くした後、彼女は真っ直ぐ此方を見て意を決したような面持ちで口を開いた。 「非常に言いづらいのですが」 「…はぁ…」 「今は平成。室町は今から600年程前です」 そんな訳がない。 だって私は室町の世に育った。 言葉を失う私に、彼女は多くの色が付いた不思議な本を取り出し渡してきた。 「ここが室町…それからあらゆる時代を経て、これが平成…現代です」 それは年表。 偽りの書物にしてはあまりに上手く出来た物な上に、見たことのない紙と技術。 「……」 尚も固まる私を、彼女は気遣いながら立たせて外を見せる。 「…私も信じ難いんですけど…どう、ですか?」 見たこ とのないからくりが道を走る。 緑は少なく灰色の道と色とりどりの高さのある屋敷。 其処から見える空は狭い。 未来? そんな未知の世界に放り出された私はどうすればいい。 戦はないと、忍者は居ないと彼女は言った。 見るからに何もかもが違うこの世で、これから私はどう生きる。 「…そうだ、名前!私は苗字名前っていいます!貴女は何ていうお名前なんですか?」 「…中在家、長…子」 「長子さんですね!じゃあ、これからよろしくお願いします!」 温かい笑顔と共に発せられた言葉。 「…これから?」 「はい!長子さんは室町の忍者の卵なんですよね?」 「…(こくり)」 「で、何故か未来に来ちゃったと。そしたら行く当てとかないじゃないですか」 その通りだ。 「だから、うちに居たらいいじゃないですか!」 「……?!でも、」 「私が長子さんを見つけて、うちで治療したのも何かの縁です!…それとも、嫌…ですか…?」 おずおずと見上げてくる…名前さん、の顔は小動物のようで、とても嫌なんて言えない。 実際に嫌だなんて思ってもいないが。 「嫌なんかじゃ、ない、です…が、迷惑、とか」 「迷惑だと思ってたらこんなこと言いません!ね、うちに居てください。怪我直しながら、帰れる方法探しましょ?」 きゅうっと握られた手はマメも傷もない。 些か頼りないその白い手はひどく温かかった。 「…ありがとうございます…よろしくお願いします」 「…!はいっ!」 こうして、私と名前さんの奇妙な生活は幕を開けたのだった。 (そういえばお幾つなんですか?私は20歳です!) (…15、です) ((え、年下?)) ((年上…?)) next… |