壊された扉
「今日も豪快だなー…」
「ごめんね…」
綺麗に外れた戸を見て呟く食満くんと、その隣で項垂れる私。
「大丈夫だよ、すぐ直してやっから!」
二カッと笑う食満くんに、戸を破壊した私はますます申し訳なくなる。
私は俗に言う「怪力」だった。
それはくの一として戦うならば素晴らしい長所なのだが、日常でも支障を来してしまうその力は私にとって邪魔以外の何物でもない。
しょっちゅう物を破壊する私は、用具委員長である食満くんにお世話になりまくっている。
因みに、今日の破損物は倉庫の扉。
建て付けが悪く、開かなくなった戸に少し力を入れたら扉ごと抜けた。
優しい食満くんはいつも文句も言わず修理を買って出てくれるが…
密かに彼に想いを寄せる私としては、この慣れきった状況に居心地の悪さを感じていた。
「まーた物壊したのかよ。ほんと怪力だな、苗字は」
そう言ったのは、たまたま通りかかったであろう潮江くんだった。
事実だ。
事実だけど…自分でも十分分かり切って尚且つ気にしていることを言われ、情けなくも私は目を潤ませた。
気付かれちゃいけない。
更に顔を俯ける。
ーー泣いちゃ駄目だ。
だって私は怪力で、すぐ物を壊して。
その尻拭いを好きな人にやらせてる。
泣く資格なんか、ない。
「文次郎、うるせぇ」
ついに我慢出来ずポロリと一粒涙が零れたと同時に、食満くんの低い声が空気を震わせた。
「何だと?!」
「だからうるせぇって言ってんだよ。そんなくだらねーこと言うだけならさっさとどっか行きやがれ」
食満くんは静かに怒っていた。
潮江くんはいつも通り、食満くんに掴みかかろうとしたが
当の本人は冷たく其の手を払うと此方に近付く。
「アイツの言うことは、気にするな」
そっと彼の手が、私の頬に触れる。
温かくて、ゴツゴツした手。
「俺は、いいと思う」
「でも、いつも、迷惑かけて、」
「迷惑だなんて思ってない。お前が、俺を頼ってくれることが、すっげー嬉しい」
顔を上げてみれば、食満くんの照れたような笑顔。
「…これからも、いっぱい修理お願いしちゃうかも」
「いーんだよ!…つーか、」
一瞬、言うのを躊躇うような素振り。
次に口を開いた彼の顔は真っ赤っかだった。
「好きな奴に頼られたいってーのが、男だからな!」
聞いて、理解するまで数秒。
だって、それって…
「食満くん、の、好きな人って…」
「あ、あぁ!そうだよ!俺は苗字のことが好きなんだ!」
嘘みたい。
ずっと好きだった人に告白されるなんて…
きっと今の私は、食満くんと同じくらい赤いんだろうな。
「…なぁ、返事、は」
おずおずと問う彼が可愛くて、私は少し頬を緩めて口を開いた。
「私も食満くんが好き」
(お前ら、俺のこと忘れてるだろ…!)
(文次郎まだいたのか?)
END
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