トリガー





あ、ヤバイ。

そう思った時には既に身体は傾き、地面が近付いていた。



次に目を開けると、布団の上だった。
ごりごりという音と、少し鼻を刺激する薬草の匂い。



「保健室…」



小さく呟くと物音が止む。



「よかった、気がついた」



覗き込んできたのは保健委員長の伊作。
何時の間に自分は保健室に来たのかと考えていると、名前の考えが分かったのか彼は眉尻を下げ口を開いた。



「文次郎が運んできてくれたんだ」
「潮江くん、が…?」
「そう。ね、文次郎!」



伊作は名前の視線と逆方向を見て同意を求めた。
まさか、と其方に首を動かすと当然、居たのは文次郎だ。



「…あぁ」



文次郎は短く応える。

名前は少し居た堪れなくなった。
自分が想いを寄せる彼に迷惑をーー



「ありがとう、潮江くん…ごめんね」
「いや、構わん…もう大丈夫なのか?」
「うん、もう全然…」
「大丈夫じゃないよ!」



遮ったのは伊作。
少し怒っているようだ。



「名前ちゃん、今月倒れたの何回目?」
「う…」
「コイツ、そんなにしょっちゅう倒れてんのか?」
「3日に1回は来るよ」



まさにその通り。
名前はまだイケる、と無理をする質であり、休むことを良しとしなかった。
そのおかげで深夜の鍛錬では頻繁に伊作にお世話になる始末。



「鍛錬はいいことだけど…もうちょっと抑えなきゃ」
「でも、私、もっと頑張んなきゃ…」
「じゃあせめて、誰かと一緒に鍛錬したら?今回は文次郎が気付いてくれたからいいけど…」



それは名前も考えた。
でも、くノ一教室では夜に鍛錬する人はまず居ない。



「誘ったけど…みんな鍛錬しないって…」



健康に関しては伊作は口煩く、親に怒られている子のような居心地の悪さを感じる。



「じゃあ、俺が一緒にやる」



困る2人に提案したのは、文次郎だった。



「えぇ?」
「文次郎が?!」
「あぁ。要は1人でなければいいんだろう」



思わぬ言葉に名前は鼓動が早くなる。



「いいの?潮江くん…」
「俺も鍛錬するし問題ない。それに…」



おずおずと問う彼女に、文次郎はやや照れたように言った。



「頑張る奴は、嫌いじゃない…」



そっぽを向く彼の耳は僅かに紅い。
名前はそれに気付いているのかいないのか、じゃあよろしくね、と微笑んだ。



「じゃあ文次郎、名前ちゃんを頼んだよ」
「おう」
「名前ちゃんは、無理し過ぎちゃダメだからね!」
「うん、ありがとう伊作くん」



2人の様子を見て、伊作が微笑んだのを彼らが気付くことはなかった。



END

(よかったね、文次郎)
(何がだ)
(名前ちゃんと仲良くなれるチャンスじゃないか)
(っ?!(バレてる?!))






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