恋する瞳





「あ、食満くん…」



目の前に座り、校庭を見ながら呟く名前に動きが止まる。
俺が書いていた日誌から視線を上げると、彼女はまだ校庭で走る食満を眺めていた。



「…食満が気になるのか」
「んー…?いや…食満くんだなぁって思っただけ…」



別段、奴に恋してるような目ではないが、名前は考えていることが読めない時がある。

もし、名前が食満に、他の奴に恋してるのであればーー

無意識に力んでいたのか、シャーペンの芯が折れて何処かへ飛んでいった。



「…どうしたの、文次郎」



覗き込んでくる名前。

少し潤んだ大きな瞳。
サラリと、陶器のような白い肌にかかる綺麗な色素の薄い髪。

ふいと視線を合わせないよう俯けば自然と目に入る制服のスカートから伸びる脚。

(丈が短過ぎるわバカタレ…!)


間違いなく俺は名前に惚れていて、彼女が他の男を見ることに一丁前に嫉妬する。
そのクセ想いを伝える勇気を持てないのだ。



「文次郎」
「…なんだ」
「私ね、好きな人いるの」



突如振られたその話題に胸が締め付けられる。

好きな奴。
居るのか。



「…ほぉ…」
「その人ね、鈍いみたいなの」



何処のどいつだ…
やっぱり食満なのか。



「その人に釣り合うように勉強したり、少しでも気にしてもらえるかなってオシャレしたり、頑張ってるんだけどね、」



その綺麗な髪も、肌も、短いスカートも
そいつの為なのか。



「全然、気付いてないみたい…こんなに好きなのに」



あぁ、やめてくれ。



「ねぇ、文次郎」



そんな鈍感な奴、やめないか。



「…好き」



好き。
その声に弾かれたように再び顔を上げる。

目の前には真っ直ぐ俺を見つめる名前。



「…気付いてくれた?」



少し茶色がかった名前の瞳には、目を真ん丸くした俺が映る。
彼女のとろりとした表情は、人が恋をする顔だ。



「…伝わっ、た」



やっとのことで何とか絞り出したその言葉。
名前は嬉しそうに そっか、とだけ言って微笑んだ。


あぁ、俺は何と言って彼女にこの想いを伝えようか?


(…でも、スカートはもう少し長くしてくれ)
(あれ、イヤ?)
(イヤじゃないが…他の奴等に見られるのは…)

END






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