ライン
(伊作→夢主→?)
「痛っ…」
「もう、気を付けてっていつも言ってるのに!」
「ごめんごめん!」
「女の子なんだから、特に顔には怪我しないよう気を遣わないと!傷残るよ?」
医務室の常連となってしまった名前ちゃんは、くりくりした目を細めて笑う。
頬に当てた湿布が彼女の美しい肌を隠してしまい、勿体無い。
「伊作くんが手当てしてくれるんだもん、大丈夫だよ!」
無邪気に笑う名前ちゃんに恋をしていると気付いたのはいつだっただろう。
医務室にしょっちゅう来る子としか思っていなかったのに、話すようになり、たまに街へ一緒に行くこともあった。
きっかけは医務室だったのに、医務室に来る理由となる無茶な鍛錬…
それを彼女がどんなに怪我しようと怠らないワケを僕は知っていた。
胸が軋む。
「…鍛錬、休まないの?」
「強くならなきゃいけないからね!」
「彼のために?」
「そ!強くなったら見てくれるでしょ?」
彼女もまた恋をしていたのだ。
思い焦がれる男の為に、怪我をするのも厭わない。
僕の恋は、自覚した瞬間から終わっていたのだ。
「…あんまり、無理はしないようにね」
「ありがと!頼もしい保健委員長殿が友達でよかったよ!」
「…っ!」
友達。
信頼されているのに、とても近いのに
ひどく遠い。
「よっし、もうひと頑張りしてくるね!」
「…っ名前ちゃん!」
咄嗟に呼び止めてしまった。
僕の突然の大声に驚いたのだろう、彼女は目をまん丸に見開いて振り返った。
…何を言うの?
<まだ行かないで>
引き止める理由がない。
<君とお喋りがしたい>
こんな夜更けに、わざわざ引き止めるまでしてする話題なんて見つけられない。
<好きなんだ>
…言えるワケがない。
「伊作?」
「…鍛錬もいいけど、ちゃんと睡眠もとるんだよ?お肌に悪いからね」
「それは大変!なるべく早く切り上げるよ!」
僕は笑えているだろうか。
小さく拳を握る。
戸を閉める寸前で、名前ちゃんは僕を呼んだ。
「本当に、いつもありがと!伊作は最高の友達だよ!おやすみ!」
その笑顔はとても綺麗で、僕をもっともっと魅了する。
あぁ、名前ちゃんの眩しいほどの笑顔を純粋に見られる日はくるのだろうか。
(悪いのは臆病なこの僕)
(君を想う気持ちさえ、否定してしまいたい)
END
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