「ゔお゙ぉい、聞いてるかぁ?」
「え?ああドキがムネムネですね」
「聞けよ、あと若干古いぞそれ」


聞けるかっつーの。
それはそれは盛大な溜め息と一緒に、心中だけで呟く。


一昨日スクアーロさんにマフラーを貰ってから、彼に対してのピンク色の気持ちが恋であると、周りに指摘されるまでもなく気付くのにはそう時間はかからなかった。

でも、元々何ですきになったんだろう。
そこは自分でもよく分からないけれど、確かにこの気持ちは恋と表現されるものなのだ。それだけは分かっていた。


まあ、兎に角そんな風に意識し始めてしまった今となっては、もう家庭教師をしてもらうどころでは無い訳で。正直もう、勉強なんて本当に二の次だった。

だって好きな人と、二人きりで、自分の部屋で、向かい合って話す(正確には勉強に勤しむ)んだよ?これで冷静になんてしてられるかって。

ああもう、心臓が陸に上がったばかりの魚みたいに跳ねて落ち着かない。

でも当のスクアーロさんは私の気持ちには全く気付いていないらしい。
その証拠とばかりに今正に、何事も無さげに「具合でも悪いのか」と私の顔を覗き込んできた。殺す気ですか。


「あの、先生、」
「何だ、腹痛かぁ?」
「えと……ペット飼ってますか?」
「はぁ?」
「アナタ、いますか、ペット」
「どこの外人だお前は」


ぺちん、そんな音を立てて額にスクアーロさんの冷たい手が当たった。

その瞬間私の体温が急上昇したのは言うまでもなく、自分でも驚くくらいに全身が暑くなった。そして手汗が半端ではなく滲み出てきたのだからもうどうしようもない。こわい。
病気じゃないの私、と思わず呟いていた。


「あ?病気なのかぁ?」
「あっ、いいいや、違います」
「…ならいいが」「で、スクアーロさんペットは?」


話題が続かないのも困るから、と慌てて再び取り繕った質問は、二人だけのこの空間にふよふよと頼りなく浮かび上がる。
先生は数秒間だけ怪訝な表情で眉根を寄せていたけれど、気を取り直したように答えてくれた。ペットはいないと。

はい、話題終わり。
せめて猫くらい飼えよ、なんて無茶な事を考える私もペットは飼っていない。
お互い様だというより、話題に犬猫を持ち込んださっきの自分に一度右ストレートをくらわせてやりたいと思った。

もう色々恥ずかしくなって、無意識的に近くにあったクッションを抱え込む。
真っピンクのそれは何だか貰ったマフラーを思い起こさせて、余計に恥ずかしくなった。もう駄目だ、本気で殺してほしい。


「おい、何縮こまってやがんだぁ」
「…もう殺して下さい」
「ハア?何の死活問題だよ」
「無理、もう生きていけないー!」
「んな事言ってねーで早く解けぇ」


スクアーロさんが押し付けてくる黒インクが滲む。
今、そんな数式に構ってる余裕はない、というか先生のコーヒーを飲む手付きがなんかアレでそれどころじゃない。

多分ろくでもない煩悩に分類されるであろう想いを抱え悶々とする私と、それをただ不思議そうな顔で叱咤する鈍感教師。どちらがたちが悪いかはもう、よく分からなかった。



(20120313)






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