何もしてないのにいきなり背筋がぶるぶる震えた。

眠さよりも寒さが先行したんだなあ、と眠い目を擦りながら手近にあった淡いピンク色の毛布をひっ掴んでアクションスターさながらの派手な動きを付けてくるまる。バッ、そんな音を立ててから毛布は私の体を包んだ。


すると、ゴチン、そんな音が突然私の頭に降ってきた。無論痛い。痛いですともさ。

痛いところに手を当てるのはごくごく自然なことで、それは勿論私も例外ではないわけで。
兎にも角にも、私は頭頂部を右手で労りながら拳を落とした張本人をキッと睨み付けてやる。


「なにすんですか!」
「お前が寝てたからだろ」
「寝てません、目を瞑って無に還っていただけで」
「寝てんじゃねーかぁ!」
「寝ーてーませ…て、いたっ!何これ時間差ですごい!痛い」


本当に、嘘じゃなく痛い。
ひりひりする頭を押さえて再びスクアーロさんを睨みつけると、彼も私がこんなに痛がるとは思っていなかったらしく結構うろたえていて逆に少し笑ってしまった。

何でだろう。何故かは全く分からないけれど、私はまだ出会って日の浅いスクアーロさんに完璧に心を許していた。まだ家庭教師にくるのも三回目なのにも関わらずだ。
もしかしたら、親とも兄とも作ってしまったわだかまりを未だ溶かせずにいるからかもしれない。


そしてこの三回で、早くも分かった事が幾つかある。

ひとつ目は、スクアーロさんの派手な銀髪は地毛であること(黒に染めたらどうかと聞いたらアイデンティティの喪失とか訳の分かんない事をぐだぐだ聞かされたうぜえ)。

次に彼は純粋なイタリア人であること(スクアーロって変な名前ですねって正直な感想を言ったら怒鳴られたきめえ)。

そして最後に、好物はマグロのカルパッチョであること(格好付けてんのかと思って吹いたらゲンコツされたうける)。

人は見掛けに寄らない、改めてそう実感した。
だって私が何も知らずに街を歩いてるスクアーロさんと擦れ違ったら、確実に怖い人だと思って端に避けるもの。偏見って怖い。

けど、偏見を持ってない人間なんていないんだろうなあ。そう思ったらちょっとだけ心臓がじくりと痛んだ。


「スクアーロさん…」
「なんだぁ?…ってうお゙っ?」
「ほら私のお茶菓子あげるから食べていいですよどうぞ!」
「いらねぇ!つーか何で泣いてんだよ!?」
「苦労してきたんでしょう…そんな異邦人丸出しのナリで!」


目頭を押さえながらスクアーロさんを労ってあげたのに、彼はそんな事より早く階差数列の問題を解けとワークを押し付けてきた。
くそむかつく、とか思いながらも大人しく目が痛くなりそうな大嫌いな数列に向き合う。

ちゃんと勉強しなきゃ。
そう分かっているし、何よりスクアーロさんは教師になったら良いんじゃないかってくらいに教えるのが上手いからだ。口下手なのに、人に教授するのだけは上手いなんて可笑しい。

シャーペンを走らせる音とスクアーロさんが私の粉した問題に丸付けをする小気味の良いボールペンの音を背景に、これはなんとなく幸せな空間なんだなと考えた。よく分からないけど。



「今日の宿題はここまでな」
「は?長っ!無駄に長いんですけど」
「長くねぇ標準だぁ」

「しかもコレベクトルと数列じゃん私が数Bが苦手と知っての仕打ちかオイ」

「被害妄想やめろよ」
「分かりましたスクアーロって呼んでも良いですか?」
「全然関係ねーし駄目に決まってんだろぉ!」
「なんで駄目なのスクアーロ」
「年上には敬意を払え敬意を」
「じゃあスペルビで」
「論外だろ」
「えー…じゃあ何て呼べば?」
「スクアーロさんでいいだろぉ」
「長い呼びづらい」

「…じゃあ、先生だな」
「うっわ先生とか呼ばれたいんですかへーんたーい!」
「黙れぇぇえ!!」



鮫のヘタレがあれば日本は平和だわ
(20120304)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -