「スペルビスクアーロだぁ」
「はあ、そうですか」
「ゔお゙ぉい、お前も名乗れ」


礼儀のなってねぇ奴だぜぇ、眉根をキュッと寄せてそう文句を言われたので仕方なく小さな声で自己紹介をする。

その真っ白…というか銀色の髪は礼儀知らずに入らないって言うんだろうか。
名前からしても外国人かなあ?でもそれにしては日本語流暢だけどさ白髪ってどうよ。

そんな偏見もいいとこな考えを腹の中で抱えながら、恐る恐るといった風にスクアーロ…さんを見上げてみた。すると当然彼の切れ長の瞳と向かい合う訳で、心なしか体温がガッと急上昇していく感覚に襲われる。


うわわわ…。
よく見たらかなり美形だこの人。
どうしても銀髪だけに目がいくけど、顔は整ってるしかなりモテそう。

どうやら私はそんな事を考えつつ、彼を物色するような失礼な視線をぶつけていたらしい。
スクアーロさんの眉間のしわが、初対面の私にも分かるくらいに瞬間的に深くなる。

慌てて目線をあさっての方向へと飛ばしたけれど時既に遅しというやつで、スクアーロさんは私が失礼だという事に対する不愉快な気持ちを隠しもせずに睨み付けてきた。私に非があるとは言え、気持ちいいものじゃない。


「な、なんなんです?」
「そりゃこっちのセリフだぁ」
「す、すみません…」
「ハッ、親の顔が見てみたいぜぇ」
「さっきがっつり挨拶してましたよね?」


スクアーロさんが余りのしたり顔で言うから、思わず真面目な顔でツッコミを入れてしまった。

それを後悔したのは約二秒後。スクアーロさんの耳がカッと朱に染まった時だった。

…て、照れてる。
これは確実に照れてるよこの人、だって如何にも「ただ言ってみたかっただけ」みたいな顔してるもんうわあ私やっちゃったよ。

ごごご、ごめんなさいと慌てて謝ると、お前が謝る事じゃねぇとか何とか、兎に角アニメに出てくるキザなキャラクターみたいに髪を掻き上げながら口にする。なんだこの人。


ウケ狙いではなさそうなのに、どうみても笑いを誘ってしまいそうな底知れぬ残念な感じ。
失礼かもしれないけれど、彼からはそんな若手芸人さながらの雰囲気が少なからず感じ取れて、何だかちょっと可愛いとか思ってしまった。

というか結局流されて家庭教師の色々奇抜な兄ちゃんに、真面目にお茶と参考書を出して向かい合ってる私ってなに。さっきまでのやさぐれた私カムバック。

そんな存外不抜けた事を頭の隅で考えつつ、改めて私より髪の長い家庭教師と目を合わせる。先程より大分彼が可愛らしく見えるようになった私の視界は、もしかしたら変なフィルターがかかっているのやもしれない。考えたくないけど。


「あの、スクアーロさん」
「なんだぁ?」
「週3日も来るって本当ですか?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
「ですよね…」


嫌だなあ、という感情を、先程のスクアーロさんに習って隠しもせずに全面に押し出して返した返答に、彼は素早く呆れにも似た表情を作って私に応戦してきた。

と思ったら、今度はおもむろに机の上に乗っていた数学の教科書をその長くて綺麗な腕を伸ばして手に取り、捲り始める。


仮にも彼は今日から(認めたくはないけど)私の家庭教師なので別に文句を言うような事ではないし、ただ「スクアーロさん睫毛ながぁ…」なんて思わず自分の睫毛を指で摘んで比較してみる。

すると不意に顔を上げたスクアーロさんと、己の睫毛を指で引っこ抜こうとしている(ように見える)私とでばちこんと目が合った。本日三回目。なんなのこの初々しいカップルみたいな展開。

でも当たり前だけど、スクアーロさんはびっくりしたような声音で何をしているのかと問うてきた。
ちょっと上擦った彼の声の方が好きだなあ、…なんて今思う事ではないけども。


「睫毛の長さ比較ですー」
「…お前友達いないだろぉ」
「なっ、いいいます!失礼です!」
「だって変人じゃねーかぁ」
「変人じゃないもん!」


力強く声に出す。
てっきりスクアーロさんは、強気な私にニヒルな笑みで言い返してくるのだろうと思ったら違った。

ぽす、頭部にそんな感触が広がる。

バッと顔を上げると、今さっきまでローテーブルを挟んで向かい側に座っていた筈の銀髪家庭教師の体が目の前にあって、そりゃもう吃驚しましたとも。

こんな近距離からのモーションに気付かなかったなんて。スクアーロさん気配消せるのかな。

馬鹿らしい思考も程々に、私が驚いているのにも関わらず私の頭にのせた骨張った手の平を退かそうとしない彼を伺い見るように覗き込んだ。


「お前も頑張ってんたんだなぁ」
「…は、なにいって、」


そこから先、声が出なかった。
理由は簡単、目の前で城壁のように私の視界を阻むスクアーロさんの体が、今以上に近付いてきたからだ。

彼の右手にはびっちり書き込まれた教科書。私がまだ誰に対しても猫を被ってた時に、虚勢と一緒に書き込んだ教科書。

彼がテーブルから乗り出している所為で、お茶が零れそうだ。


きゅっと、労るようにゆったりと抱きしめられる。

スクアーロさんからは厭らしい下心は一切感じられず、代わりに妹を慰めるような柔らかい感情はがりが私に流れ込んできてちょっと反応に困った。これが演技だったら、もう笑うしかないよなあ。

やっぱりお茶が零れそう、服の裾が湯飲みを掠めてるもん。
ぼやっと考えながら、何とはなしに彼の銀糸をひとすくい。


「スクアーロさん、やっぱり週三回、勉強教えて下さい」



(20120303)




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