「あーいいもん見た」
「うるせーぞぉ忘れろ」
「苺ショートを頼むスクアーロさん、ぷはっ」
「馬鹿にすんなぁ!」
「馬鹿にはしてませんよー」


嘘言え、というスクアーロさんのまるで拗ねた子供のような台詞は華麗にスルーして、ティーカップの中のアールグレイを啜る。

ずず、と音を立てるとマナー違反だとばかりに鋭い視線を送られたけどそれもスルーの方向に落ち着いた。大体私がおしとやかに紅茶を飲んでた方がマナー違反だと思う。


今、私の部屋の中には私とスクアーロさんと、それぞれケーキが二つずつ存在している。勿論スクアーロさんが買ったものと私が買ったものを一つずつ頂いているって寸法だ。
だから私のお皿には苺タルトとショートケーキが、彼のお皿にはチーズケーキとガトーショコラが確かな存在感とカロリーと共に乗っている。

因みに私もスクアーロさんもケーキを三つずつ買ってきた。奇しくもスクアーロさんと私の思考はシンクロしたらしい、あともう一つ…というか計二つはお兄ちゃんの分だった。

食卓に置いてある(カード付きの)ケーキを見て、お兄ちゃんはどんなに渋い顔をするのだろうと想像しただけでお腹あたりがムズムズしたのはたった十数分まえの事。


まあ、そんな話は置いておいて。

今、私とスクアーロさんは向かい合ってケーキを頬張っている訳で、プレゼントの包みはローテーブルの下に潜ませている訳で、私はこ…ここ、告白しようと試みている訳で。

正直頭がパンクしそうだった。
いや、パンクだったらまだマシだろう。最悪破裂するかもしれない。つまりはそんな危険を孕むくらいに心が張り詰めていた。

正直、プレゼントを出してスクアーロさんに愛を謳うタイミングが全く分からない。

ケーキを食べ終わったら?勉強中に?それともスクアーロさんが帰る間際?
選択肢はそれくらいしかないのに、私の心は迷いに迷っていた。どうしよう。どうしたら一番良いんだろう。


「何考えてんだぁ?」
「うえ?え、な、何も」
「黙り込んでたクセによく言うぜぇ」
「…う、」
「考え過ぎは良くねーって言っただろぉ」


スクアーロさんの長くて細い指が、ティーカップをあやすように弄んでいる。私の手の中に収まるには優雅すぎるジノリのティーカップも、スクアーロさんの手にはまるで付属品であるかのようにフィットしていた。綺麗だ。

そのきれいな彼が、私を案じてこんなにも顔を歪めてくれる。
まだ出会って1か月も経っていないただの生徒に対して、慰めたり何かをくれたりと心のケアまで担当してくれて。こうやって、自分の誕生日だと言うのに彼女のところにも行かずに私に勉強を教えにきてくれるのだ。

そう考えたら、体内中の赤血球が血液と共に全身へ送っていた先生への想いって奴が、一気に心臓へと集約されてゆく感覚に陥った。ああどうしよう、全身があのマフラーのようなオペラピンクに染められていく。

スクアーロさんが好きですきで、仕方無い。けれどその思いはまだ留めておくはずだったのに、何故だろう。


「好きです」


気付けば私の口から、ぽろりと零れていた。
自分の声だと分かった時にはそれはそれは驚いた。だって、今告白するなんて選択肢は無かったのだから。
でも同時に、今言わなかったらきっと一生言う機会を失っていたんだろうな、とも気付く。

いつ言うの?…今でしょ。
なんてどこかで聞くフレーズに酷似した声が胸中で木霊した。

まあそれは兎に角、驚いたのは何も私だけではなかったらしい。
顔を真正面へと上げれば、鳩が豆鉄砲を食らったような何ともおかしな表情のスクアーロさんと視線がぶつかった。

それはそうだろう、だってこの何の変哲もない会話とタイミングで、しかも私が突然予期しなかったであろうセリフを飛ばしたのだから。そしてその驚きは、当然彼の声にも表れていた。


「はぁ?好きだって、何がだ」
「スクアーロさんが好きだ」
「…マジかぁ」
「…って言ったらどうします?」


取り繕うようにそう口走ってしまった。恥ずかしすぎたのが原因だ。私って馬鹿だな、また逃げる気かよ。

軽い自己嫌悪も、見詰め続けた儘にしていたスクアーロさんの銀色の瞳少し色合いを変えた事によってどうでも良くなる。

何でそんなに真剣そうな顔してるんですか。
それを言葉に出す寸前に、まるで私を牽制するかのように先生が大きく息を吸う音が室内に響いた。無論、私は声を出すのを止めざるを得なかった。


「結婚してくれっつーだろおなぁ」


…は?なに言って、るの。



(20120327)



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