まだ諦めきれないのですね。まあ当たり前ですか。おまえは彼に絆されたじゃあ済まないくらいに絆されましたからね。

でも届かぬ人間にどうしてそこまで固執するのですか。命短し恋せよ乙女、無理なら潔く諦めて、新しい恋に生きる方がよっぽど利口だと思いますが。

え、私は誰ですかって?
私の正体なんか気にするより、忘れてる事があるんじゃありません?




「…校外模試、」

寝起きの一言は残念ながらコレだった。意味の分からない、寧ろ分かりたくもない夢から覚めた私は開口一番、自分だけの空間でそう呟いたのだ。

ベッドからむくりと起き上がって、側のローテーブルへと這うように向かってゆく。
カーテンから差し込む朝日に照らされて、テーブルの上に出しっぱなしにしておいた古典のワークに印刷された古文たちがキラキラと黒く光っていた。

模試…、模試か。
すっかり忘れてたと眠い頭を手でぐしゃぐしゃ掻きながら、仕方無くローテーブル前にしゃがみ込んで手にするのは愛用のシャーペン。

時計を見やればもう午前11時を回っていて、朝ご飯を食べる気も寝間着から着替える気もなくなっていた。因みに女子高生失格なのは分かってる。

ふうと一息吐いて、未だ寝ぼけ眼の目を擦りながら古典へと向かう。丁度和歌の読解練習ページだった。
そう言えば昨日途中までで止めちゃったんだっけ、と思いつつシャーペンを走らせ始めた私の目に、ふとその隣にひっそりと佇むよう書いてある別の歌が躍り出てきた。

「しのぶれど」から始まる見覚えのある句だった。
考えてみると存外簡単に、百人一首大会の際に必死こいて覚えたのだという結論に至る。意味も何故だかきっちり覚えている。

「隠していた筈の恋心なのに、何時の間にか顔に出てしまっていたらしい、具合が悪いのかと訊かれてしまった」そういう歌。


あの時は全く理解出来なかったけれど、今ならこの歌の作者の気持ちが痛いくらいに分かる、確かに分かるんだ。
差し出がましいのは承知でそう確信を抱いた。

この頃私はおかしい、直ぐに泣きたくなる。現に今も目頭が熱くなってゆく。きちんと振られたら、こんな風に思わなくて済むんだろうか。

ぽたぽたと、有りがちな音を立てながらワークの上に雫が落下していった。何故だろう、霞む視界の中で赤と銀がチカチカ光っている。

それが無意識の内に視線をお守りと包みが置いてあるベッド脇へと投げていた所為だと気付けば、自然と溜め息が落ちた。

もう、ちゃんと気持ちを伝えるしかないのかも。

吐息と一緒に排出されたのは、そんな決意に近い当たり前で。私はそこで漸く決めた。彼の誕生日に私の想いを伝える事を。そしたらちょっとすっきりした。

そしてその次いでと言わんばかりに、古典のワークが日の光の下で輝くのを見ながら、やっぱり着替えようという至って普通の女子的な結論に思い立るのだ。



(20120325)



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