「先生!ジェットコースター!一回転!乗りましょう!」

「ゔお゙ぉいメイ、」
「はい?」
「頼むからここで先生とは呼ぶな」
「了解ですスクアーロ先生!」
「了解してねーだろぉ!!」


という訳で私達、遊園地に来ています。

駅を三つ隔てただけの近場の遊園地だけれど、私としてはスクアーロさんと行けるのなら何処だって夢の国だ。
今日は平日、その所為か大して混んでもいない遊園地に気分を良くしてしまうのは仕方の無い事だろう。


「でも良く知ってましたね、今日が学校の創立記念日だから休みだって」
「まあ母校だからなぁ」
「え?母校なんですか」
「悪いか?」


いえいえ、と首を振りながらブーツをアスファルトに叩きつけてカツカツと音を響かせる。

ん?スクアーロさんってお兄ちゃんと同い年じゃなかったっけ。

一瞬、兄と先生の繋がりを考えようかと思ったものね、何だか頭がこんがらがりそうなので中止。だって折角好きなひとと遊園地に来れるのに、余計な事を考えるだなんて勿体無いじゃないか。少なくとも私はそう思う、うん。


目の前に近付いてきたジェットコースターにテンションが驚くくらいに上がり、思わず横のスクアーロさんのジャケットの裾を引っ張ると目があった。
瞬時に彼の瞳の色を伺ってしまう辺り、私はかなり彼に熱を入れているんだなあと実感してしまう。何だか憎い。


「やけに元気だな」
「だって遊園地なんて久し振りで!」
「俺もかなり久々だぜぇ」
「そうなんですか?意外」


遊園地なんて、デートスポット以外の何物でもないのに。

そう控え目に呟いてから気付いた。
世の(主に女子力の高い)女の子達は、遊園地を嫌うのだと。

遊園地は楽しいけれど、ミニスカートだと心配だからお洒落も限られてくる上、乗り物に乗れば髪型は崩れるし更にメイクも崩れる可能性もある。
少しでも相手に可愛いと思われたい女性に嫌われるのも頷ける話だ。

なのに私ったら凄いはしゃいで子供っぽい振る舞いを…、うわあ、やばい死んじゃう。寧ろ羞恥心で死にたい。

漸く自分の女子にあるまじき態度を反省したのは良いけれど、それと同時に何だかスクアーロさんが遠くなった気がした。

彼も女子がこういうレジャースポットを嫌がるのは承知していた筈。なのに私を遊園地に誘ったということは、ああ自惚れも甚だしい。
所詮私は、女の子ではなくただの生徒としか見られていなかったという事だ。


あ、だめだ涙出てくる。
危惧した時にはもう遅く、気持ちとは裏腹にしょっぱくて透明な液体がぶわっと出てきていた。

当然、いくら腕で顔を覆ってもそれを隠しきれる訳もなく、隣で私の突然の涙腺崩壊に戸惑うのはスクアーロさんで。

本当に嫌だ、また気を遣わせる、のに。
そう思っても涙というものは留まる事を知らないようで、次から次へと溢れてくる。止まらない。

もういっそ声を上げて泣いちゃおうかな、そしたら面倒臭えなコイツって嫌われるだろうし。それならきっと私も潔く諦められるもん。


でもその作戦は見事なまでに失敗した。
何故か。それはスクアーロさんが、私の頭を優しく優しく撫でてくれたからだった。

何時も、二十歳過ぎると腰が辛えとか言って嫌がる中腰をして、私に目線の高さを合わせてくれてる。さっきはあんなに人目を気にしてたクセに、今は擦れ違う人々から刺さる視線を物ともせずに泣きじゃくる私の頭を撫でてくれてる。

その事実に、また涙が出た。
でも今度は、いっそ嫌われようなんて馬鹿みたいな考えは一ミリも浮かばなかった。

ただ、ただね、好きだと思った。優しすぎるスクアーロさんが好きで、愛しくて仕方無い。


「泣き止め、ホラ」
「うあ、バンガヂ汚れぢゃいまずよ…」
「言えてねーぞぉ」


そんなに優しく笑わないでよ。しかも何でハンカチ常備してるの、ハンカチ王子かこの野郎。
悪態に似た思いが頭の中でぐるぐる回る。おもむろにスクアーロさんから差し出された手に、縋るように自分の手をのせる。


「ほら行くぞぉ、ジェットコースター乗るんだろ?」


私は弱い。意味もなく泣く。こんなにも泣き虫。でもそれなら、スクアーロさんは泣かせ虫だと思った。

心臓持ってかれちゃったなあ、泣かせ虫とやらに。



(20120313)




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