ようやく気付いた。気付いたというか思い出した。

スクアーロさんの誕生日まで、あと一週間となっていたという事実に。
どうしようと頭を抱える私に、スクアーロさんは何時も通りの鈍感を遺憾なく発揮してくれたらしく。

殴ってやりたくなるような口調と表情で、やっぱり勉強しろとワークを押し付けられる。これはもう犯罪ものだと思う。女の子の気持ちを奪い踏みにじり辱める罪。懲役五年。


「…スクアーロさん、」
「あ?」
「もう勉強したくありますん」
「どっちだそれは」


呆れるように溜め息を吐く先生の髪は、今日もムカつくくらいにサラサラで綺麗な輝きを放っていた。
でも本心を言ったまでだ。

勉強はしたくない。
だって私は今勉強どころじゃなくて、恋愛においての死活問題を背負っているのだから。

でも勉強を止めたくはない。
勉強なんてしない!なんて放棄してしまったら、もしかしたらスクアーロさんは家庭教師を止めてしまうかもしれないのだから。
元々彼は、私に勉強をさせる、という目的でここにいるのだ。なのに勉強を止めてしまったら…考えるだけで恐ろしい。


つまり今の私はどん詰まり状態。
後にも引けず先にも進めず、もうどうしたら良いか分からないという訳です。ああ神様助けて。


「先生、もう私干からびます…」
「本当に頭大丈夫かぁ?」
「もう乾燥植物、グッバイたまご肌」
「…やっぱりお前友達いねぇだろぉ」


初めて会った日のように、失礼な、と反論する気力もなくただグタッとローテーブルの上…忌まわしきワークの上に突っ伏す。
上から降ってくる本日二度目の溜め息はあまり気にしないことにした。というか気にしてしまったら終わり、もう立ち直れないと分かっていた。


取り敢えず誕生日か、何が欲しいんだろう。
…肩たたき券でもあげようかな、寧ろプレゼントは私ですー、とか。ははっ、笑えない。

虚しくひとりツッコミに興じる私の脳内を、何とはなしに感じて案じたのだろうか。
まあそれは有り得ないとしても、スクアーロさんの割りかし柔らかい声が私の頭に落っこちてきた。この人にしては珍しいタイミングがいいと思う。


「はい生きてます、何ですか」
「明後日、遊園地でも行くかぁ」
「あーはい」
「じゃあ十時に迎えに行くから大人しく待ってろよぉ」

「……え?」
「だから十時に」
「いや、そうじゃなくて…、え?」


身が凍る。まさしく今の私の状態だ。

スクアーロさんのクセに遊園地なんて単語を口に出したとか、律儀かつ紳士的な事に迎えに来てくれるらしいとかそんなのどうでも良かった。いや、どうでも良くなってしまうくらいに驚いていた。

私と、スクアーロさんが一緒に遊園地?

遊園地、と小さく声に出して確認すると、ご丁寧に言葉を拾ってくれたらしいスクアーロさんがケロッとした顔で「行かないのか?」と聞いてきやがる。


待て待て待て、二人で遊園地ってもう、デデデ、デートじゃないの。そんなの展開が早すぎるし上手く行き過ぎてるわよ、でも先生的には私はただの教え子で、息抜きに遊びに行こうってだけじゃないのデートとか自惚れちゃ駄目!

色んな気持ちが胸中でせめぎ合い織り交ぜ合い、おかしな色をつくってゆくような気分だ。言葉が上手く見つからない。


「…あ、の、もしや、」
「あ?嫌なのかぁ?」
「っ、デート商法じゃないっすか?」


空気が固まった。自分でも呆れる。
やっと声が出たと思ったら、寄りによって悪徳商法と疑う言葉を吐いてしまうとは。我ながら、口調も馬鹿っぽいし。

声に出さずに大きく後悔しながら、スクアーロさんを伺い見る。

すると何故だろう、彼は今さっきの私と同じように、テーブルに突っ伏していた。肩がふるふると揺れている。

ん?と思いつつ、その広い肩をつんつんとつついてみた。すると先生の、堪えかねたような低い笑い声が私の部屋に木霊したのはその直後で。

ただでさえ声の大きいスクアーロさんが、何時にも増して大声(思わず耳を塞いだ)で笑いながら言った。

可愛い反応し過ぎだろぉ。

耳まで真っ赤にさせられたこの台詞を、私は多分一生忘れない。




終わりじゃないよ!続くよ!
(20120313)





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