「土方さん、隊を変えてくだ」
「却下」


ぶふー、自分なりに精一杯可愛いく、足の長い人気モデルのように頬袋を膨らませてみる。

すると何を思ったか土方とかいう上司が、気持ちワリィ事すんなと言って私へと思いっきり苦い表情をぶつけてきた。
自分はニコチンまみれのクセによく人の事気持ち悪いとか言えるわこの人。何様俺様副長様?実はヘタレですとかふざけんなってぷぷぷ。



「俺はヘタレじゃねぇ」
「へ?なななな何ですか?」
「俺はヘタレじゃねークソアマ」
「私土方さんが俺様でヘタレ様でうざいなんて一言も言ってませんよ?」


いきなり思っていた事をズバッと言われた為ちょっとビビった私は、少し上擦った声で返答。
からの土方さんの行動。それがムカついた。だってやれやれオーラ全開で溜め息を吐いて首を振ったんだから。

その上「お前自分の特性未だに分かってねーのな、脳細胞全部ネトゲ知識か?」ですって。
何よ失礼しちゃう!私何もネトゲだけじゃないのに。普通にゲーム機でもゲームするもん乙女も格ゲーもいけちゃうもん!

反抗してやろうと土方さんを有りもしない目力をでキッと睨み見るとがっつり目が合った。その瞬間の土方さんの瞳に思わず少しドキッとした私を殴ってやりたい。
けど、瞳孔開きかけてるとか性格がアレだとかそんなの関係ないと思うくらいに彼がイケメンであるのは確かな事であって、イケメン耐性のない私がそれに負けそうになってしまうのは必然だと思う。

まあそんな訳で、目を逸らしました。
そりゃあもうススッと。



「ンだお前いきなりそっぽ向いて」
「いいえ何でもないです因みに今こっち向いたら目潰しするぞ」
「ハア?つーか後半敬語どうした」
「ああああ、土方さん煩いですあとこっち見んなっての本当に」


デリカシーどこに落っことして来たんですか?
そう正直な気持ちを口にしながら、手の平を使って土方さんからの怪訝な視線をなるべく遮るように努力する。努力してはいるけど、残念ながら私の小さめの手の平ではそれをガードするに足らないようでやっぱりモロに彼からの目線を感じた。

見えずとも分かる。私の顔が今赤くなっているのが。
くそう、土方悪魔かお前確信犯か。


暫く無言で意味があるのか、というか意味はほぼないであろう微弱なガードを続けていると、土方さんは面倒臭いかのように一度大きく息を吐いた。
無論それに反応して跳ねたのは私の肩だったけど、それでも辛うじてバリアを崩すのは免れた。

そして深い溜め息に引き続いて空間を揺らしたのは、マヨネーズ上司が煙草に火を付ける音。シュボッ、なんて間抜けともとれる響きが、私と土方さんの間に居心地悪そうに浮かんでいく。

ああ、なんか余計変な雰囲気になっちゃったかも。
自分の行き過ぎた拒絶への後悔をぼんやり考えていると、不意に土方さんが一ノ宮と低い声で私の名前を呼んだ。



「は、はい?」
「つーかアレかお前、総悟か」
「は?」
「一番隊を抜けてぇって理由だよ」
「ああ…理由、ですか…」


ここで冒頭の話題に戻るのかよ。
そう思い呆れて、ちらりと盗み見た土方氏は至極真面目な表情で、私は逆に吹き出しそうになった。

うわ何、ここで上司っぽさを見せ付ける気かよポイントゲッターも大概にしろよ。
そんな事をぼんやり考えながら土方さんの表情を今一度素早く伺い見る。それは勿論、私が今自分の気持ちをうっかり(あっさり)外に出してしまっていないかを察知する為でもあった。

まあ今の気持ちは自分でも内面で内面でと言い聞かせながら思っていたから、幸い土方さんからは何時ものバカにしたようなムカつく顔は返ってこなかったけれど。
返ってきたのはアレだ、「あ?違うのか?」って怪訝な表情。やっぱり私やればできる子。



「違いません。沖田さん以外何の理由があります?」
「まあな…」
「大体聞いてくださいよ!」


あの人見回りとか称して外に出て、甘味処行って近所のガキいじめ倒してゲーセンで心ゆくまで遊んで、あげくの果てにはお前一人で見回って来い勿論歩きでさァ、とか言うんですよ!

今まで意地でも崩さぬとしていたガードをスッと取って広くなった視界の中、一息に沖田さんへの不満をぶつけてみる。

案の定と言うべきか、沖田さんのサボリ癖には慣れっこなのであろう土方さんは苦い笑い、正に微苦笑ってヤツを浮かべて聞いていた。やだその顔ちょっとくる、とか思ってしまったのは一生内緒にしておこうと思う。土方さん調子乗ると面倒くさそうだし。



「なのに土方さんが却下とか斬り捨てるから私もう泣いちゃいます」
「ハッ、お前の泣き顔なんざ見ても何も感じねーよ」
「おい土方それどういう意味だ?」
「お前さっきから敬語忘れ気味だろ」
「それも沖田さんの所為ですよ」
「ぜってーお前の素だろーがァ!」

「いえ違いますだから私がもっと生意気な言葉遣いをする前に隊「却下」…チッ、」



舌打ちしてんじゃねーよ、という土方さんの諫めを完全に無視して、ふてくされモードに入ってやろうとふいとそっぽを向く。子供っぽいとか言わないでほしい傷付くから。

そんな私を見てどうやら土方さんは呆れを覚えたらしく、私の右頬に彼の疲労感が伺えるような声音がぶつかった。
土方さんも苦労してんだなあ、とか考える。天敵を誉める私。えらい、良い女の子っぽい。



「あのなァ、一ノ宮」
「何ですかマヨラ・マヨラさん」
「ゴリラ・ゴリラみてーに軽口で言うな、お前総悟の事をごちゃごちゃ文句言ってるがな、」
「はい?」
「…お前も今仕事中だろォォオ!」



バーン、本当にそんなハリウッド映画みたいな効果音と共に、土方さんはその額に青筋を浮かべていきなりキレた。

なんだコイツ。もしかしたら彼は精神が不安定な病気なのかもしれない。ああそう思ったら可哀想になってきた。
考えながら、申し訳程度に出されていたボロい湯のみに並々注がれていた煎茶を啜る。

何故かは分からない(事にしておく)けど、この行動が土方さんの苛々を更に煽ったらしく。
酷く興奮した様子でワナワナ震える土方さんが今目の前にいた。やばい、バーストアウトラッフィングしそうで怖い。



「お前も十分今サボってるよな?」
「このお茶クソ不味いですねー、さすが土方さん」
「だったら戻って仕事しろ!」
「でも不味いのに美味しい」


アハハ、この煎茶意味分かんない。

顔の筋肉を解放させながら手の中で湯飲みを転がす私の正面で、苛々しつつも言葉が出てこない様子の土方さんを見ていたら、何だか私真選組に慣れる事が出来ちゃいそうじゃん?なんて、そんな事を考えた。



∴扱いに長けてきた



(20120225)