ねえ露草、お日様って暖かいね。

なまえはそう言ってから瑞々しい芝の上をごろごろと転がった挙げ句、何故か俺にぶつかってきた。
体当たりされた衝撃は決して小さいモンではなかったが、その仕草が可愛いとかイカれきった事を考えてしまう俺の脳にはあまり関係はないようだ。


そのまま彼女の頭に手を回してそのサラサラの髪を手櫛で梳いてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らす音が俺の鼓膜を揺すった。

なんだその猫みてぇな声は。
心臓がきゅんと苦しくなって息が詰まるこの現象が、よく人間の女共が騒いでいる「萌え」っつーやつなんだろうか。

よく分からねえが、取り敢えずこの気持ちはふわふわしていて暖かい。
俺にとってはなまえがお日様みてえなモンだ。



「露草、私達って妖怪でしょう?」
「あァ。当たり前だろ」
「露草はさ、私が天座に入った時のこと覚えてる?」



小首を可愛らしく傾げてそう聞いてくるなまえに内心気分が高揚しつつも、表面には出さないようにして勿論だと返事をした。
心なしか頬が熱い気がしなくもないが、それは決して赤面してる訳ではねぇと自分に言い聞かせて、だ。



「私さ、初めて露草に会った時にびびったんだ」
「は?」
「余りにも露草が可愛くて、私負けたって思ったんだよね」
「お前なぁっ…!」


彼女が口にした可愛いというに反応した俺は、思わず身を乗り出して彼女の上に被さる体勢になっていた。

突き飛ばされても文句言えねえと少し焦ったものの、なまえは全く気にする素振も見せずに俺の瞳を捉えている。



「可愛いとか言うな!」
「だって本当だもん」
「本当じゃねえ!」
「何でそんなムキになるの?」
「……別に」


男のクセに可愛いとかないだろ。
そう言うのも何だか憚られて、とりあえずぷいと顔を背けてやった。

自分でも変なプライドだと自覚はある。でも可愛いと言われるのはやっぱり癪だ。
特に梵天と比べられて可愛いだの弟だの言われるのは気にくわないし、なまえがたまに梵天の事を格好いいと零しているのはもっと気に食わない。

なんで俺はこんな顔で、ナリで、性格で生まれたんだ。



「露草、」
「…ん?」
「私しってる、露草は格好いいって」
「んなぁ!?」
「思ってるよ、露草」



ふにゃりと歪むなまえの笑顔。
俺の一番好きな顔で思わぬ事を言ってくれた彼女を衝動に任せて寝転んだまま抱き締めたら、太陽に存分に当たったなまえから暖かさが伝わってくる。

少し泣きそうだ、とか言ったらお前はまた「可愛い」なんて歌うように口にするのだろうか。



∴やっぱりべた惚れな露草



(20120102)



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