「隊長、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」


銀髪を揺らして振り返った隊長に小さくお辞儀をした。

天才児である隊長は私より年も身長も全然小さいのに仕事が沢山ある。それ故彼の目の下には見て取れるくらいに隈が出来ていて、本当にお疲れ様ですという気持ちにさせられる。


けれど私は分かっていた。
日番谷隊長の隈が仕事の所為だけではないことくらい。


「なまえ、少し時間あるか?」
「ありますけど…」
「すこし話があるんだ」


そう言ったくせに私にくるりと背を向けて歩いていってしまう隊長の後ろ姿を暫くぼうっと眺めていると、ふいにその背中が動きを止めて再び向かい合う形になった。とは言っても今度は距離をとって、だけれど。



「付いて来ねぇのか?」
「あ、付いていったほうが?」
「悪いが場所移すぜ」


すみませんと一言詫びを入れてから彼の背中を追い掛けた。

小さいのになかなか追いつかないその後ろ姿は、私と隊長との戦闘力の差に似ている気がしてなんだか寂しくなってしまう。

手を伸ばして追い掛けてもすり抜けていってしまう、まるで雪の中を走っていく動物みたいな隊長。
私は何度彼を諦めようと思ったか知れないけど、その度にやっぱり無理、もう少し追いかけたら、なんて淡い希望に縋りついてしまう。所詮私は三席止まりの、しがない死神でしかない。


気付けば私達は屋内から外へと移動していた。不意に隊長がピタリと動きを止めたので、それに合わせて私も足を動かすことを止めた。もちろん、一定の距離を保ったままだ。



「隊長、話って?」
「……」
「わわっ、いきなり瞬歩使わないでください」
「…悪ぃな」
「しかも何か、ち…近いです」
「なまえ、真剣に聞けよ」



彼からは距離をおこうとしてくれる雰囲気もないし、小さく身じろぎをして体を離そう。

そう考えたのだけれど、小さく後退すればした分だけ隊長が近づいてくるので諦めた。こんな至近距離耐えられないのに。



「隊長、どうしたんですか?」
「…俺はお前が好きだ」
「……は?」
「なまえだけが必要なんだ」


翡翠色の瞳が私のそれを射抜く。
吸い込まれそう。心臓が破裂しそう。
…だけど、だけど。


「ごめんなさい」


私はあなたとは一緒になれない。
きっぱりと言えば、珍しく焦りを露わにした彼から何故かという問いかけがすぐに返ってきた。ああ、止めて。そんな目で見られたら、今夜夢に見ちゃう、から。


「告白するなら、その隈をなくしてからにしてください」



隊長、私知ってるんです。
隊長のその隈は、雛森副隊長の看病で出来たものなんだって。ごめんなさい隊長。大好きなあなたの折角の告白を無碍にしてしまって、私は馬鹿だ。


でもあなたも悪いんです。
雛森副隊長の為に藍染に復讐しようとしているクセに、私を必要だなんて言うから。



∴日番谷の苦い失恋



(20120102)



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