私は縛られる事が嫌いだ。物理的に拘束されるのは勿論のこと、精神的に縛られるのも嫌で嫌で仕方ない。人間なんて皆それぞれ違う生き物だ。だから、私は誰にも束縛されない、私だけの生き方がしたいのだ。それの何処が、間違っていると言うのだろうか。


その旨を意気揚々と雷蔵に告げると、彼は一度その大きな瞳を更に大きく見開いて、それからそっと、吐息を零した。私の目には何故かその溜息だけが真っ白に着色されてその場にプカプカ漂っているように映って、何と無く居心地の悪い気持ちになる。「え、何か問題でもあるの?」なんて、こんな正直な言葉が私の口蓋から飛び出していってしまったのも、頷ける話だろう。なんせ雷蔵は今、何時もの柔和な笑顔とは一変して苦虫を噛み潰したような表情を隠す事もせずに顔一杯に塗り広げているのだから。


「んー、問題っていうか、何て言うか…自由だなあ」
「私が?当たり前でしょう、自由でいる事が幸せなんだから」
「まあ、そうなんだろうけど…」
「だけど?」


逆説の言葉を復唱して、自然にその先の言葉を促してみるも、雷蔵はそれ以上に言葉を紡ぐのを渋るばかり。言いたい事が上手く文として纏まらないのか、それとも内容は決まっているのに声に出す事を躊躇っているのか。どちらかは鈍い私には分からないけれど、決断力の欠如がしばし見られる彼の事だ、恐らく前者なのだろう。と、勝手に結論付けてから、まん丸くて愛らしさが伺えるその瞳を静かに見据えた。

一秒、二秒、三秒と、視線が絡まり合ったまま時間だけが私達の前を過ってゆく。言うなら早く言ってよ。もう一度、今度はあからさまな催促をしようと肺に空気を取り込んだその瞬間。控え目に、でも確かな芯を持った雷蔵の声音が、漸くその場を揺らした。


「ぼくとしては、束縛したい気もするんだよね」
「なにを」
「何って決まってるだろう、おまえを」
「え、私を?」
「うん。おまえは何時も鳥みたいに自由だから、偶に心配に思うんだ。何時かぼくから離れていきやしないかってね」


だから、飛んで行かないように閉じ込めてしまいたいと思った事だって、何度かあるよ。
照れもせずに言い切った雷蔵の目は、沈黙の時と変わらずただ只管に私の顔を捉えていた。見られているのは表情だけである筈なのに、何だか心臓の中にある扉の奥まで覗かれているような気分になる。と、同時に、何故か一気に全身の温度が上がった、気がした。

反論の言葉が喉元までせり上がって来ていると言うのに、上手く声になって出力されてくれない。自分の頬に血が通うのが否応無しに感じられる。そんな症状達に一瞬で苛まれたという事実に居た堪れなくなって、思わず雷蔵の綺麗な瞳から目を逸らした。否、目を逸らさずにはいられなかった、と言うべきか。けれどそこに、まるで追い打ちをかけるかのように雷蔵が私の名前を呼んでくるものだから、困るったらない。ドクドクと落ちてゆく鼓動の音にも負けず私の中心に響く彼の声音に恐怖に似た甘味を含んだ感情を覚えつつ、静かに呼吸を整えた。落ち着け、落ち着くんだ、私。


「わ、私は自由が好き」


そう、私は自由である事が好きなのだ。誰に強要されるでもなく、私が主体となって、他の誰にも真似をされない生き方をしたいと願っている。でも、でもね。


「雷蔵に変わらない想いを誓う事もまた、私の自由だと思うんだ」


だから、安心してねと。そう笑いかけた先に現れた彼の笑顔は余りにも優しくて、私はまた、熱に浮かされた吐息を零した。



月見草:花言葉は
自由な心



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ミィちゃんは快活で行動力があり明るくて…と、沢山の魅力があるのですが、私の中では自由というイメージが強くこの花になりました。自由というのは物理的でなくて、精神的な話です。物事に囚われず、何かを創り出してゆける人だと思います。ミィちゃんリプありがとうございました。



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