どこを見ているのですかと、ジャーファルさんは聞いてきた。未来です、と正直に答えたら彼は何故かとてもびっくりした顔をして、それから少しだけ寂しそうにダークグレイを歪めたから、私は何も言えなくなってしまう。


「貴方はすごいですね」
「え、どうして、ですか?」
「そうやって一人、前を向く事が出来るのでしょう?」


やはり少しだけ寂しそうに答えたジャーファルさんに、私はただ小さく小首を傾げることしか出来なかった。

最近よく思うのが、私の中には大きな道が出来ていているんだろうな、という事だ。私はそこをひたすらに、脇目も振らずに走っている。この道が正しいのか正しくないのか、善なのか悪なのか、白なのか黒なのかなんて良く考えないままに、ただ走っているのだ。それが何物であるかは、きっと突き当たりに辿り着くまでは分からないままであるのだろう。

だから、逆に、私はジャーファルさんが羨ましい。沢山のことを考えながら、着実に現在を見据えながら、歩いて行ける彼がとても眩しい。綺麗だと、思うのだ。


「私は、前しか見れていないんですよ。馬鹿だから」
「馬鹿なんですか?」
「はい。恐らくかなりの馬鹿です」
「未来を見据えていられる人間は貴重だし、活力になると思いますが」


貴方自身においても、この国においてもね。
ジャーファルさんはそう口にすると、何時になく柔らかな笑顔を浮かべた。その表情が私の心臓の奥の方までもをひたひたに沈めてゆくのを、何処とは特定できない器官が感じ取る。

ああ、羨ましいなあ。私もジャーファルさんみたいに生きる事が出来たらいいのに。誰か一生、命に替えても尽くしたい人を見つけて、その人の側でじっと物事を見据えて熟考して、少しでも良い道に進む手伝いが出来るように。そうなれたなら、きっと私の世界は今以上に忙しなく、今以上に濃い鮮度で回り出すに違いない。羨ましい、なあ。

本日二度目の憧憬を抱いたその瞬間に、私の脳裏は何故か銀色に埋まった。何故だろう、鈍くも心地良い痛みが、私の頭にじわじわと広がる。目の前のジャーファルさんが、急にとてもとても、ほんとうに素敵な存在に思えてきた。彼を入れた視界が焼けるように熱い。なんだこれは。分からない。何だ、これは。


「ん、どうかしたのですか?」
「…あ、いや、え…?」
「私の顔に何か可笑しな物でも付いていますか?」
「え、いや!あの、違います…」
「ふふ、そうですか」


理由なんて知らない。いや、知りたいとさえ思う隙間もないくらいに、私の頭の中はジャーファルさんの髪と同じ銀色で一杯一杯になっていた。
これから先の未来が、私がジャーファルさんの隣にいる未来が、どういう訳やら脳裏の一画を占拠する。まるで毒のようだ。毒のように魅力的な未来が、次々と臓器に流れ込んでくる。そしてそのどれにも、彼の眩しい銀糸が存在しているのだ。

不意に呼吸が苦しくなる。どうやら喉の奥、気管の入り口で、気付かぬ間に沢山の単語達が立ち往生していたらしい。


「あ、あの!」
「はい?」
「わ、私、も、素晴らしい未来を作るお手伝いをしたい、です」


ジャーファルさんのお側で、と、次いで零しそうになった口蓋を慌てて塞ぐ。この動悸が何なのか、まだよく分かりもしないのに、こんな衝動に任せてはいけない。まだだ、まだ。私が将来、自分の理想のようになれた時にこそ、言おう。

そっと決意をしてから改めてジャーファルさんを見上げると、美しいダークグレイは何故かとても優しく歪んでいた。


「ええ。では、私にもその未来を見せてくださいね?」



ストック:花言葉は
未来を見つめる



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もいもいは将来のビジョンをしっかりと持って生活しているというイメージがあります。凄いお思いますし、そういう人のところには幸運が舞い込むものです。羨ましい限りです。でも、もいもいの毎日に幸あれ。RTありがとうでした。



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