檻の外から私を見下ろす黒い少年が、何故か嬉しそうに目を細める。お前そんなとこにいて窮屈じゃねーの?

綺麗な黒髪に燃えるような真っ赤な瞳、ああこの人はきっと「選ばれたなにか」なのだろうと、彼の言葉を右耳に入れながらもぼんやりと推測を立てる。当たり前の事を言うなと怒鳴りたかったが、生憎そんな気力も体力も残っておらず、ただその汚れひとつない黒い服をじっと見詰めた。


「何だよ、答えねーの?」
「…答える必要がないでしょう」
「なにその理由、つっまんねー」


唇を尖らせる少年に、ごめんなさいと大人しく謝っておいた。何を隠そう今は囚われの身、檻の外にいる人間達に下手に接して即処刑になんてなったら溜まったものではない。

それに、この少年。様相からしてまだ成人すらしていないだろうに、こんな地下まで気儘に国罪の人間を見にこれるくらいの人物なのだから、恐らく何かしらの力か地位を持っているに違いない。つまり、彼の意思ひとつで、わたしは今この場で死んでしまうかもしれない、という事だ。

しかし、どうやらこの少年は私の思っていたような人間ではなかったらしい。彼は私が口答えした事でなく、謝った事に対してそれはそれは盛大に眉を顰めた。私を見下ろす二つの赤い光に、脳天を貫かれるような気分に陥る。

危ない。彼は、駄目だ、官吏などより余程、危ない。不意にそんな警鐘が頭の中でぐわんぐわんと鳴り響いた。理由は分からない。分からないけれど、この赤い目は、危険だ。


「お前さ、なんの罪があってこんな深いとこにいんの?」


乾いた牢の中に、少年の黒く艶やかな声がストンと落ちる。てっきり何か責めるような事を言われるかと思っていた為、情けなくはあるが「へ」と間抜けな短音が口蓋をすり抜けていった。それをご丁寧にも拾い上げた少年が、興味深げに上半身を曲げてきた所為で恐ろしく妖艶な赤い瞳がぐっと近付く。蛇のようだ、と思った。何か他人の大切なものを丸呑みにしてしまう、蛇のようだと。


「なぁ?聞いてんだけど」
「私は…何も」
「ハ?何かやったからこんなとこぶち込まれてんだろ?」
「…ええ、そうかもしれません。けれど」


私も大概にバカだと思う。
恐ろしい恐ろしい、逆らわないようにきちんと接しようと思っているにも関わらず、やはり自分の思いを吐き出さずにはいられない私は。それで何度損をしたことか分からない。何度傷付けられたことか分からない。

けれど、それでも私はどうしたって、私自身の本音を裏切ることは出来ないのだ。


「この国の、世界を火の海に、乱世にしようとする思惑を憂い止めようとする事が、罪になるとは思っていません」


真っ赤な双眸をきちんと見据えて放った。届かなくとも、蔑まれようとも、私の言葉を、私自身の唇で紡ぐことが出来るなら何も恥じる事はない。私は、悪くない。罪なんて、犯していないのだ。

不意に、暫く私をポカンとした目で見詰めていた少年が小さく吹き出した。ケラケラと声を立てて笑う少年の姿は牢という場所にはとても似合わず、とても不恰好に見える。何がおかしいのだろう、という疑問を当たり前に抱く間に、彼の細く筋肉質な腕が檻を強く掴んだ。


「オマエ、バカみてーなヤツだな!んな事したらあのジジイ達が黙ってるワケないのに、マジで傑作。すげーよ」


馬鹿にされているなあ、とまるで他人事のように考える。と、その瞬間だった。私の檻が、粉々に砕け散ったのは。

何が起こったのか理解出来ず、ただ呆然ともうもうと上がる白煙の向こう側に仁王立ちする少年を見つめる。彼の片手には、光る棒状の何かが握られていた。どういう事だ。何が起こったのだろう。意味が、分からない。


「おもしれーから連れ出してやるよ。オマエ、名前は?」



ローズマリー:花言葉は
静かな力強さ



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桜季さんからは底知れぬ力のようなものを感じます。以前表紙を書く為にK全話観た、というツイートを目にしたあたりから、パワフルだ凄いなと。そして私の書くジュダル君は何時だって定まりません。ごめんなさい。桜季さんRTありがとうございました…!



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