恐らく、彼、夏目君とわたしの見る世界というのは、似ているようですごく違うに違いない。どれくらいの違いかと聞かれたなら、私の視界に映るこの大きすぎる空がスカイブルーとすると夏目君の目に映る空は黄緑色だと言えるくらいには違う、と思う。

そんな彼にただのいちクラスメイトである私が何をしてあげられる訳でもないけれど、でも何にもしてあげられない訳でもない。なんて、友達に聞かれたら楽観的だって笑われるのかもしれない事をぼんやりと考えてみる。


「あ、夏目くん見て」
「え?」
「空に飛行機雲、みえるよ」
「え、あ、あー…本当だ」
「…ん、どうしたの?」


教室の窓から丁度見る事のできた、青い青い空を走る一本の白線。それを指差して隣の席の夏目君に笑いかけると、彼は素直に私の指先の方向へと首を捻って、一瞬ハッとしたような顔をして、それから偶に垣間見せるバツの悪そうな曖昧な笑みを浮かべた。

こういう時の夏目君にはきっと事情があるんだろうな、という事は何と無く分かる。分かっているのに、私はそれを上手にいなしてあげる事が出来ない人間だった。最悪だなあ、と、自分でも思う。けれどそんな後悔を浮かべた時にはもう、私の口からは夏目君の首をきゅうと締め付けるみたいな言葉が飛び出ていってしまうのが常なのだ。

そして今回も例に漏れず、思わず夏目君に問い掛けてしまった馬鹿な私は、お茶を濁す為にも小さな笑顔を浮かべてみた。ごめんなさい、夏目君。声に出さなければ想いなんて伝わらないけれど、それでも口に出すのは幾ら何でも烏滸がましい気がして。困ったように、焦ったように視線を泳がす夏目君に、もう一度心の中で深いお辞儀をした。右目の目頭の奥に、少しだけ痛みを覚える。


「あ、えーっと、大丈夫、別にどうもしないんだ」
「…そっか」
「ほ、本当の本当に」
「うん」


分かってるよ。
たったこれだけの肯定であるのに、夏目君は至極嬉しそうな表情をその整ったお顔いっぱいに塗り広げた。

その途端、胸がきゅう、と切なくなる。何故だか無性にこの、目の前の優しい目をした彼が愛おしく思えた。私と夏目君はただのクラスメイトであって、付き合っているとかそんな甘やかさを含んでいる関係では決してないのにも関わらず、だ。どうやら私はいま、少々頭がおかしくなってしまっているらしい。

私と夏目君がそんな、なんて彼にしてみれば何とも迷惑で自意識過剰な思考が脳裏の一角を陣取ってしまって嫌になる。はあ、と色にしてみれば青空を曇らせる埃のような吐息を零して横目で夏目君の姿を伺い見てみた。先程までの焦って眉根を寄せた表情とは打って変わって、優しく眉尻を下げて空を見上げる彼が、そこには厳然と存在していた。


「ああ、綺麗だね」
「うん、そうだね」
「俺、二手に分かれている飛行機雲なんて初めてみたよ」
「…へえ、そうなんだ」
「うん。まるで、喧嘩しているみたいだね」


そう謳うように口にして、夏目君はふんわりと笑う。その笑顔に身体中の血液が少しだけ温まった気さえ起きた私は、やはり少しおかしくなってしまっているに違いない。


「仲直り、できるといいねえ。」


無意識のうちに出ていた言葉に、夏目君は安心したようにそっと息を吐いた。柔らかなその息が、教室の狭い窓から逃げ出すように溶けてゆく。青空には、真っ直ぐに伸びた一本の白線が笑っていた。

私と夏目君の見る世界というやつは、似て非なるもの。それでも別にいいのでは、と、私は思う。だってそれで、夏目君が夏目君でなくなる訳ではないじゃないか。



アイリス:花言葉は
優しいこころ



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周英ちゃんはいつも気さくに絡んできてくれたり、少し愚痴のようなツイートをした時にも暖かい声を掛けてくれたりと、とても優しいイメージがあります。本当に人に優しくする、というのは簡単そうに見えても中々難しいですね。周英ちゃん、RTありがとうございました



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