「コレ、お前のだろ」 惚れた。なんともベタな手法で。 落としたハンカチを拾っていただいた、それだけで。 別に惚れやすい体質でも何でもないのに。なのに確信を持って言える。 坂田銀時に惚れたと。 だって目が勝手に彼を追い掛ける。 脳みそが勝手に彼の事を考える。 クラスも違う上に今まで意識してきた人物でも、さして接点があった訳でもないから尚更だった。 ああ、今までなんで彼の魅力に気付かなかったんだろう。なんて我ながら盲目的。 でも彼ともう一度話したい。 そう考えていた私は毎日のように彼の出没スポットである購買へと向かった。 そして一週間と三日目、私に奇跡が起きた。 「メロンパン売り切れェ?」 そう、たった今私が買った最後の一個のメロンパンを悔しそうに見詰めながら、彼が購買のおばちゃんに叫んだのだ。 これはパンを譲るチャンスだ。 そして会話をするチャンス。 ピザパンと迷ったけどメロンパンを買って良かった。ナイス自分。 高鳴る左胸を抑えて、依然メロンパンを見詰める彼にそれをずいと突き出した。 えっ、という驚いた声が上から降ってきたけれど、今顔を上げたら恥ずかしくなって何も言えないに決まっているので床と睨めっこを貫く。 「あのっ、これどうぞ!」 「でもそれアンタのじゃ、」 「いえ私、一応お弁当もあるしいいんですいいいや別に大食いではないんですけど!」 ついお弁当も持ってきてるなんてマイナスアピールをしてしまって焦った。 慌てて言い訳したものの、顔をあげてみれば彼は苦笑いをしていた。頭に石が落ちる。いや、正確に言えば石が落ちる気がしただけだけれど。 「じゃあ遠慮なくもらうぜ?」 「っどうぞ、」 「悪ぃな、…えっと、」 「私、なまえって言います」 「名字は?」 「あ、あなたと同じ坂田なので」 そう言って私も苦し紛れの苦笑いを返す。すると意外な事に彼は大笑いし出した。 その真意を全く掴めないでいると、高らかに笑う彼とがっつり目が合ってしかもなんだか優しく目尻を下げられたので、今日一番のドキドキに達する。ただ自分の心臓の耐久性を祈った。 「アンタ面白ェな」 「おもしろい…?」 「あァ、気に入った」 「き、きにっ!?」 「良かったら一緒に飯食おうぜ」 にっこり笑ってメロンパンを振る彼に正に骨抜きにされた私は、彼の後を心拍数の増大の所為か覚束ない足取りで追いかけた。 ∴実は前々から目を付けていた銀時 (20120104) |