私の彼こと與儀は金髪で長身のイケメンで優しくて人当たりが良くて、何より強い。おまけに輪の闘員だからお金の心配もいらない。

だから與儀は、ルックス・性格・収入と、三拍子揃った男として最上ランクの青年だと世の女性たちから言われている。

…けど、実際そんな事はない。
断じてない。
彼を最高だと言うのは、上っ面のカッコつけた與儀しか見たことがない人達だと思う。


だって與儀はヘタレだから。
しかもそんじょそこらのヘタレではなくて、極度の、うざったくてしょうがないくらいヘタレ。まあそれも可愛いと言えば可愛いんだけど…。

でもそんなヘタレゆえ、私にはある悩みがあった。
付き合って1か月、與儀が全く手を出してこない。私の目下の悩みだ。

與儀がヘタレなのか私に魅力がないのか、そこら辺はよく分からないけど、とにかく彼は恋人らしい事をしてこない。
というかしようとする素振りもなくて、私はそれが不安でならないんだ。

もしかして私じゃ性欲なんか湧かないんだろうか。
そう考えると涙が出そうになるし、與儀が私に可愛いって言ってくるたびに何だか無性に腹が立つ。可愛いと思うんだったら、手出ししてくれてもいいのに。


そうやって珍しく物思いに耽っていたら、タイミングが良いやら悪いやらで與儀が帰ってきた。しかも底抜けに明るい笑顔と大きなただいまという声付きで。



「あー、與儀おかえり…」
「?なまえちゃん元気ないね?」


どうしたの?
なんか悲しい事あったの?

女子顔負けの首を傾げる仕草でそう続けた與儀を見ていたら、何だか泣きそうになった。

何でこんな優しい顔してんの。
私の事、そんな大切じゃないくせに。
子供っぽい感情は止まることを知らず、態度にも言葉にも表れてしまう。私って馬鹿。



「別に。與儀の所為じゃないよ」
「なまえちゃん泣きそうだよ…?」
「うるさい。與儀うるさい」
「オレでよければ相談乗るから、」
「っ、私の事好きでもないクセに優しくしないで」


言ってしまった。
言った瞬間に後悔した。
だってその瞬間に與儀の目にぶわって涙が集まったから。

私より泣き虫な與儀はボロボロと惜しげもなく透明な水滴を零した。なんかすごい罪悪感に襲われる。



「與儀…泣かないでよ」
「って、オレ、なまえちゃっ、」
「私不安なんだよ」
「?」
「與儀は私に何にもしてこないし」
「っごめ、」



好きならキスくらいしろよ。
半ばやけになって命令口調で吐き捨てた言葉は、どうやら與儀の心臓の真ん中に刺さってくれたようだった。

イケメンのお顔が涙でキラキラ光って、それは私の手をびちょびちょに濡らす。ああ、ちょっとすっきりした。


「オレ、なまえちゃんの事大好きなのに、ごめん」

そう言って乙女のように目を瞑って唇を突き出す與儀に、めちゃくちゃときめいてしまったのはその直後だった。



∴ヘタレ與儀は私達の希望です



(20120104)



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