「ザジ、お疲れ」
「おう、なまえもナイスフォロー」


ザジととあるヨダカの街への配達と集荷を終えての帰り道、鎧虫に出会ったのでザジと力を合わせて倒した。まあ実を言えばほとんどザジの力のお陰だけれど。

心弾を使った所為で疲弊した体と気持ちを自分なりに労りつつ、ザジの隣を彼の相棒である黒豹のヴァシュカと共に歩む。

…と、そんな私達のすぐ側の茂みが小さく揺れた気がした。

ガサガサ、と明らかな音が鼓膜を叩いたのはその直後。

私はわっと間抜けな声を上げただけだったけど、戦私とは違い闘経験豊富で危機管理能力抜群のザジは咄嗟に心弾銃を構える。ええ私も一応はテガミバチですが。

いつ鎧虫が飛び出してきても良いように身構えると、不意に茂みが割れた。くる。



「っ……、って、あれ?」
『ニャー』
「え、」


緑の草を掻き分け出てきたのは真っ黒い毛をした猫だった。

愛らしく小首を傾げる仕草を見せ付けるように私達の方へ寄ってくる猫に、可愛いなあと目尻を下げる。

ただ、それは何も私だけじゃないことにはたと気付いた。
だって隣のザジの目が、びっくりする程輝いていたから。

そう言えばザジは大の猫好きだった。
蜂の巣でも何匹か飼ってた気がする。

頭に猫と戯れるザジの姿を思い浮かべた時にはもう既に、彼は足元の黒猫へと腕を伸ばしていた。腕だけじゃなく鼻の下まで伸びてるのが素敵なポイントと思われる。



「お前可愛いなあ、」
『ニャオ?』
「俺と一緒に来るか?ん?」
『ンニャー』
「かっ、わいいいなあオイ」
「ザジも可愛いよ…」



ぽそりと呟いた私の言葉は猫にメロメロなザジには届かなかったようで、その証拠に彼はまだデレデレしながら猫を撫でていりる。いつもだったら可愛いなんて言ったらスネちゃうのに。

というかそれよりザジの隣でヴァシュカがすごい羨ましい気に唸ってるんだけど。猫危ないよなあ。

取り敢えず処置として猫を抱き上げザジとヴァシュカから少し遠ざければ、すごい眼力でザジに睨まれた。
私が悪い訳じゃないのに、酷い仕打ち。


しかも猫は何を思ったかフラフラとまた茂みへと帰っていってしまいまして。

あちゃー、と声を漏らした瞬間にはザジが私に詰め寄ってきた。私って損な役回り…。



「なまえ、猫返せぇええ!」
「ごめんごめんザジ。でも、」
「でもじゃねぇ!ごめんは一回!」
「…ごめんね」
「許さねえ」


たぶん今ヴァシュカどうこう言ってもザジには通用しないだろうから、兎に角彼の機嫌を取る事にした。
怒ったザジも可愛いなんて思うのは、惚れた弱みというやつなんだろう。



「ザジ、お詫びに今度猫カフェ行こう?」
「猫…カフェ?」
「うん。ユウサリに出来たんだよ」


突如として花を咲かせたように笑顔になるザジの手を、さり気なく握ってみたら嬉しい事に握り返された。

私ってすごい。
デートの約束まで取り付けたんだから。



∴猫にはでれでれザジ



(20120104)



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