桃色のサラサラした御髪を纏め上げ、更に三つに分ける。微かに桃の香がするのは錯覚だろうか。


「なまえ、早くしてよ」


私の上司である神威団長は、そう言って少しだけ頭を振った。
三つ編み中に頭を振ったら全て台無しになると何度言っても学習してくれない。早くするどころか遅くなる。

でもそれはマズい。
だって私が殺されるもの。

対処としてさっきより手を動かすスピードを上げる。


大体部下に髪を結わせるって間違ってると思う。

こちとら団長が暴れまくって台風が過ぎた後みたいにぐっちゃぐちゃの死体とかを片付けなくちゃなんないっていうのに。

呑気に「なまえが一番綺麗に結えるんだもん」とか言いながら茶を啜ってるんだから、武力社会って怖い。

心の中にだけ思いの丈をぶち撒きつつ、手は休めずに団長のトレードマークである三つ編みをつくってゆく。
急いだ為かものの三分で出来上がったそれを鏡で映すと、神威団長は満足そうな笑みを浮かべた。


ああ、反則だ。そんな素敵な笑顔。
そりゃあ星々で女性引っ掛けられるわな。

勝手に納得してうんうんと頷いていたら、団長が私を怪訝そうに覗き込んできたから危うく心臓が止まるかと思った。
彼といると何をするにも命懸けだ。



「なまえ?何ボーっとしてるの?」
「すみません団長、」
「全くなまえは俺の側付きなんだから気を抜いちゃダメだよ」
「そ…側付き?」
「そ。違うの?」



いやいやそんなつもりは露ほども有りません。
思うものの流石に言葉には出せず、ただ笑うことしか出来ない。

神威団長私の事召使いと勘違いしてるんじゃないか。私だって第七師団の団員ですよ。



「俺お抱えの召使いでしょ」
「やっぱり召使いなんですか…」
「嫌なの?」
「いや、嫌といいますか…」

「ふーん。じゃあいいよ、恋人ね」
「あ、はい………は?」
「だから、なまえは俺の彼女ネ」



にこっと微笑んで爆弾発言をさらりと言ってのけた神威団長に、何も言えずにただ口をパクパクさせる私。

端から見ればなんともシュールだろうけどそんな事はどうでもいい。というか展開に付いていけない。
どうしたら召使いから恋人に飛躍出来るんだろう。



「言葉の意味履き違えてます?」
「失礼だなあ、殺されたいの?」
「いやいや全っ然!」


でも団長が私を恋人ってなんか可笑しくないですか釣り合わないですし!
全身全霊を持って続いてそう声を張ると、神威団長はメロメロ効果がありそうなとびきりの笑顔を私に向けた。

ああどうしよう。
今心臓が溶けたらどうしよう。


「ただなまえが欲しくなっちゃっただけだよ」


あ、どうしよう溶けた。



∴神威は女子を悩殺する達人



(20120103)



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