志摩君が大好きでした。 そのピンクブラウンの髪も、垂れた目尻や可愛らしい京都弁、戦いにおいての錫杖さばきまでも。全部ぜんぶ。 以前彼が一度私に言った。 「なまえはかいらしいんやから眉間にシワなんて寄せとったら勿体無いですえ」って。 だから私は今はもう、何があっても渋い顔をしなくなったんだよ。眉間にシワを寄せる事は一生しないって決めたんだ。いつ志摩君がひょっこり私の前に現れてもいいように。 毎日お風呂の時にはパックもしてるし、前よりは化粧だって上手くなったんだ。 だから今度デートする時は前嫌がったプリクラを一緒に撮ろうよ。撮ったプリクラを携帯に貼っても怒らないから。 ああでも、やっぱり私は恥ずかしいから携帯の電池パックの蓋の裏側に貼るだろうな。 行きたいところが一杯あるよ。 前は志摩君に聞かれてもあんまり思い浮かばなかったけど、今はたくさんたくさんあるの。 だからねえ、早く帰ってきてよ。 何時まで京都に帰郷してるつもりなの?私はずっと待ってるのに。 好きだったのに。 …いいえ、勿論今だって大好きだよ。早く志摩君と会話をしたい、優しい腕の中で眠りたいの。 思わせぶりな態度もいい加減にしないと私、勝呂君とか燐を好きになっちゃうよ?…冗談だけど。 でもこんな有り得ない事を考えるくらい、志摩君が恋しいの。メールと手紙だけじゃ足りないの。 志摩君、会いたいよ。 会いたくて会いたくて溜まらないよ。 何度も京都まで会いに行こうと思ったよ。でもその都度勝呂君も子猫丸君も奥村先生も、出雲ちゃんまでもが私を止めるの。ねえなんで。志摩君に会いたいだけなのに。 私、志摩君なしじゃ干からびちゃいそうで怖いよ。 * 「なあ勝呂、」 「あ?」 「なまえって酷いヤツなんかな」 「なに言うてんねや奥村」 「いやだって、あんなに志摩志摩って泣いてたのに、最近泣かなくなったよな」 「…それはな、暗示をかけたんや」 「はあ?暗示ぃ!?」 「せや。皆知ってんで」 「暗示って催眠術だろ?何したんだよ」 「志摩が生きてるて暗示や」 「!」 「なまえは見事にかかりはった」 「じゃあ、なまえは」 「まだ志摩が生きてるて思うとる」 「っ、それってすげーひでえよ」 「せやな」 「じゃあ何で、」 「仕方無いんや。なまえ、後追って自分も死のうとすんねや。何度も、何度も」 ∴優しくておちゃめだった志摩 (20120103) |