「いずみー!どこにいるのー?」

お腹の底から声を絞り出すように呼ぶと、割と近くの建物の裏から聞き慣れた泉の声が私へと言葉を返してきた。

意外にも相手がすぐに見つかった事に喜びを噛み締めつつ慌てて白い校舎の裏を覗いた。
ら、その瞬間ににゅっと伸びた細いけれど筋肉質な腕に勢い良く引っ張られた。


「うわっ!?」

無論突然の事に体勢を崩した私は、そのまま雪崩のように倒れ込んでいく。…そう、泉の腕の中に。

こいつ、謀りやがった…!
咄嗟に泉の目を捉えた瞬間にそう悟ったものの、崩れ去ったバランスが元に戻る事もなく、結果そのまま彼の腕の中へとダイブ。腕を開いて飛び込んでこいよポーズの泉が憎たらしいったらない。



「いいぃ泉、あんたね…!」
「何だよ怒んなよなまえ」
「怒るわ!練習抜け出したから心配して探しにきてやったのに」


語気を強めて言えば、泉は少しバツが悪そうに、無意識だろうか、可愛らしく散らばったそばかすをなぞる。

その仕草に不覚にもきゅんときてしまった自分を殴りたい。
流されちゃ駄目よなまえ。



「俺知ってたからさ」
「は?」
「なまえがくること」
「は?なんで?」


ハテナマークを浮かべて泉を見る。
確かに私は野球部のマネジだから部員探しをして当たり前だけど、私以外にちよちゃんだっている訳で、絶対私が来るなんて確信なんてないはずで。
なのに何故、そんなに自信に満ちた顔をしているんだろう。



「さっき篠岡がモモカンに分析ノート見せてたから、探しに来んならなまえしかいねーって思ったワケ」
「そこまで考えてたの?」
「そ。なまえと二人になりてーし」



悪びれる様子も無しに腕の中に収めた私をぎゅうっと閉じ込めるように抱き締めてきた。

誰かに見られたらどうするの、という弱々しい抵抗は泉の体温の心地よさにかき消されてしまう。悔しい。何が悔しいって、温もりに逆らえない私が。



「馬鹿泉」
「馬鹿でけっこー」
「後で花井に謝んなよ?」
「ん、後でな」


後で後でと譫言のように呟きながら猫のようにすり寄ってくる泉に心臓が締め付けられて、つい練習も何もかもどうでいいと思ってしまう。

そして欲に負けた私は、泉の泥が付いたユニフォームをぎゅっと握り締めて、校舎の陰で彼と一緒にサボる道を選択した。



∴結構策士だったりする泉



(20120102)



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