何故かベルから、リップは常に携帯しているのか、それは色付きか匂い付きかとリップ関連の質問を事細かにされた。

ほんのりピンク色の苺の香りつき。
別に隠す必要もないので正直に答えた私。

ただそれを後悔する事になったのは一週間後、つまり今日今この瞬間。

何を思ったか金髪王子の野郎は、教えてやった通りのリップを口に塗って私の部屋に侵入してきた訳だ。


いや待てなんのつもりだ。
ピンク色の可愛らしいリップ片手に入ってきたと同時にベルに投げかけた言葉には、ニンマリと漏らした笑みで返される。

なに、なんかベルのクセに変態の匂いがする。怖い。

本能が逃げろと警鐘を鳴らしているけれど、不幸な事に私の部屋にベランダはないし唯一の出口である扉は当のベルが塞いでいる為逃げる事は無理だ。

せめてもの逃げとして後ずさって距離を取るものの、同じようなペースで近付いてくるどっかのキチガイ王子によって距離なんてモノは呆気なくも消え去った。しかも体がぴったりくっつくくらいに密着される。
嬉しくない。全く嬉しくない。



「なにコレ虐め?」
「ししっ、なに喜ばねーの?」
「どこに喜ぶ要素が?」



警戒態勢をとりながら聞けば、ベルはリップ効果でいつも以上に艶々の唇を指差して「これオソロイじゃん」とか全く喜ばしくない事をほざきやがった。どうしよう殴りたい。

そのまま何を考えたか彼は私へと顔を近付けてくるから尚更殴りたい衝動に駆られる。

ちょっとでも喋れば息がお互いの顔にかかる距離。
こいつ私がドッキリ展開に慣れてないが為の仕打ちか。なめやがって。


「止めてベル、何する気?」


息が掛かるのは承知で彼の金髪の向こうにある瞳に問いかける。
ベルは私の質問にはまたもや答えずに、ただしししといやらしい(私にはそう感じられる)笑い声を立てて笑うだけ。

なんだこの野郎殴っていいなら殴るんだけど。というかベルが私の右腕をがっしり掴んでらっしゃらなければ殴れるんだけど。



「うしし、なまえに塗ってやるよ」
「は?」
「リップ」
「は?」
「口移しでな」



空いている方の手でリップを見せびらかすベルに、いやいやと首を振って苦し紛れの抵抗をする私。なにリップ口移しって。やだこの金髪変態。

けれどどうやらそんな私の抗戦も虚しいものと化すのが運命のようで。


目測だと唇同士がくっつくまで、あとゼロコンマ三秒くらいだ。



∴たまには変態ベルもいい



(20120102)



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