ベルの本当に欲しい物。
それって何だろう…?


彼は私と同じく人を殺す事が好きで、他人の血を見ることが大好きだ。ついでに自分の王家の血を見て、正気を飛ばすのも悪くないと、いつか言っていた気がする。

だからと言ってもルッスのような死体収集はしていないから死人をあげても喜ばないだろうし、彼が大好きな生きてる人間なんて周りにごまんといるのだから、わざわざプレゼントにする必要もない。

しかも私は流行に疎いから、洋服とかそういった類のセンスを必要とする物は確実に失敗するだろう。


うーん…。

部屋のベッドに転がりながら唸れば、それに呼応するようにカーテンがひらひらと揺れる。

もう十二月も半ば、窓を開け放しにしておくのは流石に辛い時期になってきたけれど、寒さと爽やかな空気を天秤にかけたときに空気の方が大事だと思ったから、夜以外は未だに窓を締めた事はない。まあよく皆には変な奴だって言われるけど。

ついつい本題から完璧に逸脱した、下らない事を考えてしまう自分に嫌気がさす。


実はベルに欲しい物を聞いた時から、もう丸二日も時が過ぎていた。もうベルの誕生日まで三日しかない。

もしかしたらベルの期待に応えられないかもしれないという不安を抱えつつ、どうしたら良いものかと悩んだ末、私はある決定をした。

気分転換を兼ねてプレゼント探しに街に繰り出してみよう、と。


善は急げと言うように、思い立ったらすぐ行動しなければ意味はない。
勢いよくベッドから飛び起きて、クローゼットの中から適当に服を選び素早く身に付ける。

都合のいい事に今日は私には任務が入っていない。その上確か、ベルは逆に任務があっていなくなる筈だから帰りが遅くなっても何も疑われる事はないだろう。



そういう訳で私は、鏡で一度自分のセンスの無さを確認してから、バタバタと暗殺者としてあるまじき音を立てながら足早にヴァリアー邸を出た。






*


騒がしくて明るくて落ち着かない。

ほとんど買い物に街に出ることのない、俗に言うおのぼりさんに近い状態の私の街に着いての第一印象がこれだった。
無駄に派手な赤と緑の装飾や、通り全域に漏れなく反響している底抜けに明るいクリスマスソングがとても耳障り。

でも手ぶらで帰る気は毛頭ないので、取り敢えず嫌になるくらいクリスマスムードに染まるお洒落な街で、独りベルの好みそうなお店や物を探し歩く。


とは言っても、めぼしい店も商品も有りすぎるのが問題だった。
もともと、物が溢れている街中でたった一つを探そうなんていうのには無理があると思う。

あー…、フランに着いてきてもらえば良かったかな。

私よりは確実に目利きが出来そうな、エメラルド色の頭をした後輩を思い浮かべながら思わず苦笑してしまう。


すれ違う人達はほとんどが幸せそうなカップルや家族で、何だか私だけが別世界の人間みたいに感じられた。

点在するスピーカーから流れるクリスマスソングも、私以外の人々だけを優しく包んでいる気がして、私は知らず知らずの内にその場から逃げるように、裏路地近くのシックなお店に入っていた。

はたと気付いて店内を見回せば、少し大人っぽい雰囲気だけれどとても魅力的なアクセサリー類が陳列されていて、自然と商品を物色していく形になる。



あ、これベルに似合いそう…!
目に留まったのは銀色でアンティーク調のネックレス。
私には判別がつかない動物を形どったそれは、他の物とは違いえもいわれぬ美しさがあって思わず凝視してしまう。



「何かおさがしですか?」


ネックレスに夢中の私に突然降りかかってきた声に、情け無くも肩がびくんと揺れた。店員さんの声にいちいちビクつく暗殺者なんて、見たことも聞いたこともないのに。



「あ、いえちょっと見て………ん?」

「…う、そ」
「もしかして…あなた、」
「っ、ノエル様…!」



私の顔を見て大きく目を見開いた彼女は、私の以前の部下だった。

残念ながら名前は覚えていないけれど、確か随分前にヴァリアーを辞めた彼女。まさかこんな所で、表の世界の人達となんの違和感もなく生活しているなんて。

理由は違えど彼女と同じように驚いたけれど、取り敢えず何か言わなければという気持ちが先行した私は少し上擦った声で元気かと、当たり障りのない事を聞く。
否、その挨拶が私の精一杯だった。



「はい。ノエル様もお元気で?」
「まあ元気にはしてるよ」
「そうですか…、今日はどうしてこんなところへ?」



ベルの誕生日プレゼントを探している旨を伝えると彼女の瞳に一瞬翳りが出来たような気がしたけれど、気の所為だろうと思い直して彼女に笑いかける。


けれど、それは気の所為ではなかったんだ。


ただその事を知ったのはもう少し後。

彼女に勧められてあのネックレスを買い、休憩がてら一緒にお茶をする事になったのが、目の前で曖昧な笑みを零す彼女にとっての運命の岐路となったのだった。




To be continued...

(20111216)

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