「ノエル、そっち行ったぞぉ!」
「分かってるよ、――っと、」



スクアーロに返事をしながら鈍色に光る剣を自分を中心にぐるりと一振りすると、人肉が斬れる感覚が剣を握った手から伝わってくる。
そして予想はしていたけれど、その直後に斬られた人間の断末魔の叫びが私の鼓膜を震わせた。

それはそれは野太い叫び声で少し驚いた事は否めないけれど、そんな事を気にするのよりも目の前に大群で押し寄せてくる男共を斬る方が数倍大切だろう。

私とスクアーロを囲むようにして、今にも襲い掛かってきそうな勢いの彼らは多分今回の標的のガードマン等だろうか。全く、命知らずな人達。

心中でそう呟きつつ一歩後ろに下がって、スクアーロと背中同士をぴたりと合わせた。



「スク、ベタな台詞言っていい?」

「背中は任せた、ってかぁ?」
「あ!何で言っちゃうのよ!!」



酷いカス鮫、と彼をなじる言葉を投げようとしたものの、目の前の人達が一斉に私達へと飛びかかってきたのでそうも言えなくなってしまう。
スクアーロに背中を預けたまま、避けたり剣を振るったり、余裕があれば銃を取ってそのまま撃ったり。


そうして数分後、私達はその場の人間を全滅させていた。まあこの位朝飯前というやつで。
そして更に数分後には、私達は標的の元に辿り着き、その人を殺して任務を終えた。


スクアーロと私はお互い剣士である事から良くタッグを組む為か、なんだかスムーズに済みすぎて呆気なかった気さえする。
…でもまあ、血を一杯浴びれたし、楽しかったからいいや。

そう思ってスクアーロの隣を、彼の歩調に頑張って合わせて歩いていると、ふと彼からの視線を感じて目を合わせた。

穴が開きそうな位にじいっと見詰めてくるスクアーロにどうしたのかと問えば、少しだけ言葉に詰まった彼は、私からぷいと目線を逸らしてから口を開く。



「お前、ベルの誕生日知ってんのかぁ?」



あまりに唐突な質問で、思わずえ?と聞き返してしまった。

何でスクアーロがそんなにも顔を赤らめて、ベルの誕生日の話なんてするんだろう。皆目見当がつかない。



「知ってるけど…何で?」
「いや、知ってんならいいんだぁ」
「でも気になる。…何で?」
「いや、だからそのなぁ…!」
「だからその?」
「な…何でもねぇ!!」



断固として口を割ろうとしないスクアーロに、軽い苛立ちを覚える。

別にスクが私に何を隠そうが関係ない事だけれど、それがベルの事となれば話は別だ。
他人が私の知らないベルを知っているのが許せない。

独占欲が強いってレベルじゃないなんて自分でも分かってる。

でも、でも、スクアーロだけが知っているベル一面があるなら、私だって知りたいの。


絶対喋らせてやろうという固い決意を持ってスクアーロを見据えると、彼が少しだけ身じろぎをしたのが見て取れた。この空間のイニシアチブはもう私のものと言っていいと思う。



「スク、言ってくれるよね…?」
「だから何でもねぇぞぉ」
「何でもなくていいから教えてよ」
「………」
「スクアーロ、」



冷ややかな目で微笑む私は、今スクアーロからどんな風に見えているんのだろう。まあ私はベル以外の人間からどう見られようと、正直どうでも良いんだけれど。

スクアーロは間を空けるにつれて青くなっていって、遂には観念したように息を吐いた。私の勝ちだ。



「…ベルに言われたんだぁ」
「ベルに?」
「ああ。ノエルがちゃんと王子の誕生日覚えてるか聞いてこい、とか意味分かんねえ事言ってなぁ」



スクアーロに命令口調でものを頼むベルの姿が目に浮かんで、何だか可愛くて笑ってしまった。そんな事スクアーロに頼むなんて。
全くベルは、私がベルの誕生日を知らない訳がないのに。



「馬鹿だな…」
「あぁ゙?」
「スクじゃないよ。ベル」
「あいつも変なとこ不器用だしなぁ」
「…だね」



そこも好いんだけどね、と付け足すと、スクアーロからはノロケかという厳しいツッコミが返ってくる。

あながち間違いではないので、嘘臭いアハハという笑い声だけを立てた私は、いつの間にか自分のペースで歩を進めていることに気付いた。
どうやらスクアーロが私に歩調を合わせてくれたらしい。



「…何にやけてやがんだぁ」
「んー、スク意外にいいとこあるよねって思って」

「んな事ねぇ!」
「照れなくてもいいじゃん」
「っ、照れてねぇ!!」



真っ赤になって反論するスクアーロに説得力なんて皆無で、私は勿論そんな彼を笑ってやった。笑える時にはとことん笑っておかないと。それが私の信条だ。


気を取り直すように一度咳払いをした彼は、ベルにあげる物はもう決まったのかと問うてくる。

血が滴る程に染み込んだ服を着てする話ではないなあ、なんて考えたら可笑しくなってしまって、思わず声が上擦ってしまう…、私はきっとスクアーロと同じく空気が読めない部類の人間なんだろう。



「今決めてるんだよね、」
「ベルの喜びそうなモンかぁ…」
「一番喜ぶ物をあげるんだ、私が」



語尾を強調した私を変な顔で見てくるスクアーロの後ろには、見慣れた黄色の半月が浮かんでいる。

血を浴びた後特有の爽快感と共に夜風を感じつつ月と目の前の銀色を眺めるなんて、私ってかなり風流な女の子だと思う。…自分で言うのも何だけれど。



「何でそこ強調すんだぁ?」
「スクを牽制してみた」
「はあ゙!?」
「だってベルにあげるんでしょ?」



そう聞けば間髪入れずに、金色の月明かりに照らされた美しい銀髪を靡かせたスクアーロの声が闇夜に響いた。

「プレゼントなんかやる訳ねえだろおがぁ!」…だって。




To be continued...


(20111212)



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