「ちょっとー…ベルセンパーイ、早くしてくださーい」


翡翠の髪と瞳が涼しげでムカつく蛙頭が、依然墓標に向かって座り込むオレを急かしてきた。イライラすっからナイフを適当に投げつけてやれば、わざとらしい呻きが聞こえてきて余計王族の神経を逆撫でてくる。

いつもの王子ならここでぶちきれてバカ蛙を追い掛けてやるとこだけど、正直今はンな事は二の次だ。


何でって、決まってんじゃん。

今日は十二月二十二日。
オレの29回目の誕生日であり、ノエルの二回目の命日。



ノエルを殺した当初は、彼女の事は忘れて違う馬鹿な女共で遊ぼうかなんて狡いコトを考えていたオレだったのに、存外ノエルが王子に残した染みは大きかったらしい。

今でも彼女の事を忘れられず、健気にノエルの誕生日と彼女の命日である王子の誕生日には墓参りをしている。
まァノエルとの約束だしな。


王子が今でも彼女のことを忘れられないワケ。
それはノエルを殺した時に、彼女が余りにもキレイだったからだと思う。

真っ白いブラウスに真っ赤な血が勢い良く染みていく様は、王子の目に焼き付いた。それこそ、何ヶ月か夢にまで見たほどな。


結局王子はノエルの望み通り、自分の心の一部を完璧に彼女に明け渡しちゃったってコト。

つくづくノエルには勝てないと思ったぜ、王子も。
だって俺宛のノエルからの手紙には、王子がただ単に好きだって文がひたすらに綴ってあんだから。

多分ノエルなりに、どうしたらオレの気持ちが自分に向いたままでいてくれるか考えに考えたんだろうな。ししっ、モチロン取ってあるけど。



後ろで未だに俺をせっついてくるフランは無視して、用意してきていたノエルへの花冠を墓標に架けた。


冠の花はチューベローズとかいう、あのときの彼女のブラウスを連想させる真っ白い花だ。形は兎に角、花言葉がノエルにピッタリだと思ったから。


ノエル、お前は一生王子のモンだぜ。


ふと心地いい風がオレの頬を撫でていくモンだから、ノエルが何か言っているのかなんてらしくない事を考えてしまって顔を上げて彼女の眠るところを見る。


何となく、何となくだぜ?


ノエルが彼女特有の妙にそそる笑顔を片手に、王子に言った気がした。





チューベローズの庭で遭いましょう?






The end.


(20111222)

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