「王子遠慮なく殺っちゃうぜ?」
「うん」


いいよ、と笑って彼の金糸を一掬い、手のひらで遊ばせる。ベルが嬉しそうに笑うものだから、私は自分の生に手を振る決意をより固くした。

元より人の命を刈り取って生きてきた私。
それだけでも身勝手だと知っているのに、その上大好きで仕方がない人に殺されるのだから満足しない訳がない。

ベルに殺されるなら本望。
これが私の常日頃から感じていた本心であるし、実行されるのだって喜ばしい事だ。


ベルは私の着ている死に装束のように白いブラウスのリボンをくるくると手で一通り弄ぶと、満足気な顔を引っさげて口を開いた。この人はなんて可愛いんだろう。



「白いから血がキレーだろーな」
「でしょ?やっぱり白が一番赤に映えると思って」
「流石ノエル」
「えへへ、ありがとう」



スクアーロがこの場にいたら、お前は照れ臭そうに笑ってんじゃねえ、今から死ぬんだぞぉ!とでも言って私を叱るだろうか。
まあそんなのは知ったこっちゃないけれど、それ以上に今この瞬間を誰かに自慢したくて仕方無かった。

私、もうすぐベルに殺されるんだよ、うらやましいでしょ。


アンティーク調の時計の針が丁度十二時と二十二分を指そうとして、カチリと動いたその刹那。
私達は二人して息を止めて、そしてどちらともなく止めて笑い合った。



「ししっ、時間もイイ感じだな」
「楽しみの引き延ばし過ぎも毒だよ」
「じゃあノエル、死ぬ?」
「そうだね、死のうかな」



あんまり痛いのは嫌だよ?
そう言って小首を傾げれば、ベルは当たり前だと口に出しながら鈍色に輝く彼自慢のナイフを、赤い舌を出してペロリと一なめした。

その行動が平生の私の血を舐めてしまう癖とリンクして、死ぬ直前にも関わらず私は妙に興奮してしまう。
静かに、安らかに綺麗に息を引き取りたいのに、なあ…。



「ベル、ひとつお願いしていい?」
「いーよ。絶対守ってやるし」
「…私の事、頭の片隅でいいから、ベルの中に置いておいて」



まるで幼児が懇願するように。
ベルの服の裾を握り締めて言った。


本音を言えばね、ベル。
ベルが私を殺したかったのと同様、私もベルの死に際が欲しかった。ベルの亡骸が段々と冷たくなっていく事の背徳感を味わいたかった。

…けど、ベルが私を殺したら気持ちいいと言うのなら、私は甘んじてそれを受け入れようと思うんだ。
それに、自分の赤を綺麗に散らすのも悪くない。そう考えたから。

だから、ベル。
せめて私の事を頭の片隅でいいから、存在させてよ。


ベルは私の思いを丸々汲み取るように、私の大好きな笑顔を顔一杯に広げて「モチロン」とだけ囁いた。それだけで私が安心したのは言うまでもない。

私は笑顔を浮かべて、ベルの艶やかな唇そっと自分のそれを重ね合わせた。

最後の口付けは鳥が実を啄むような感じがして、何だか少し安心する…、これが私達なんだって。



「ししっ、ノエル、愛してる」
「私だってベルが大好き。何よりも愛してる」



じゃあ、また逢おうね。
そう言い合ったのがさよならの合図。

愛しい彼は音もなくナイフを握って、その焦点を私に合わせた。


私は幸せ者だ。
だって最後に見た景色が、大好きなベルが銀の凶器の放つ光を自身の金髪に反射させながら、私へと振り下ろすモノだったんだから。


愛おしいくらいに鋭い痛み、自分が白から赤へと、いや、黒から赤へと変わる感覚。

余りにも甘美で、私は途切れかけの意識の中で、無意識的に自分から流れ出す血を指で掬って舐めていたらしい。

あ…ほら、鉄の味。
ベルも私の血、舐めてるかな?


私の眼前に、真っ赤な花が咲いた。




The end?
―――No kidding...


(20111222)
完結間際、です

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