「なぁ、俺の事好きか?」



彼女は、俺の全てだ。
俺があの暗闇から、思い返すのも嫌になるくらいに赤く染め上げられた世界から抜け出せたのも彼女のあのお天道様よか明るいだろう笑顔があったからだ。

ぎんとき、銀時あんたは日の下で生きていくべきなのよ。彼女はそう言ってあの頃、俺の頭を何度も何度も撫でてたっけな。

元々困ってるヤツは放っておけねェ性格の彼女につけ込んで、俺は。


「もちろん好きよ、銀時」


俺は、最悪な男だ。
何年経っても彼女が俺から解放されるどころか、俺以外の方向を向くことすら許せねえ俺は。

それでも彼女は笑顔で嘯く。
私は銀時と一緒なら何でもいいのだと、平気な顔をして街を歩くし飲み屋を回るし、偶には昔を懐古しさえもする。ああ、そう言やあ俺の銀髪をわしゃわしゃ撫でるクセもそのままだ。

そして俺の何時まで経っても稚拙な心は、そんな彼女を心の底から愛しいと感じる訳だ。

いや、それが愛しいという感情であるのかははっきりとは分からねえが、それでも確かに思うのだ。
死ぬまで彼女の傍を離れたくないと、離れるくれえなら舌を噛み切って死んでやる、となんとも無理な事を。



「悪ぃな、何時までもお前を放してやれなくて」


ガキん頃からそうだった、彼女は謝るとはにかむように笑って必ず「冗談言わないで」そう言う。

それは俺だけに向けられた台詞だった。俺は高杉にも桂にも、彼女がその言葉を浴びせているところを一度も見たことはなかった。

俺だけなんだ、彼女は俺の事だけは何があっても叱らないんだ。つまり彼女は、俺を一番に思ってくれているに違いねえ。

幼心にそう感じた。
全く、今思えばなんて馬鹿なガキだったんだと思う。

ハッ、死ねばいい。ガキん頃の俺なんて、大人の都合で行われた薄汚ぇ戦争に巻き込まれて死にゃあ良かったんだ。彼女をこんな風に閉じ込めちまう前に、呼吸が止まれば良かったのだ。
そう切実に考える俺の脳は、多分、いや確実にぶっ壊れてる。



「私が、銀時を解放できないの」



彼女の言葉は息を呑む音ですら立てられないくらいに静かに空気に溶け込んでいく。

窒素と、ほんの少しの酸素と二酸化炭素と合わさった彼女の言の葉は、泣けちまうとか柄にもない事を考える程に綺麗で、俺の心臓を満たしてゆくようで。
それでも足りないとも思う、我が儘過ぎる俺はやっぱり消滅すりゃあいい。



「可哀想な銀時、一人ぼっちの銀時を独りになんて出来ないもの」



ずぶり、俺の全身が黒い沼に引きずり込まれてゆく感覚に襲われる。

何もこれが初めてじゃねえ。
何回も味わって味わって、もう味がなくなったガムみてーに虚しいこの感覚を、俺は彼女と深い部分で言葉を交わす度に感じるのだ。

ああ、分かってたさ。
彼女の瞳が俺に向いていない事なんざ、とっくの昔から知っていた。彼女が本当はどこを向いているのかも知っていたし、昔を懐かしむ時だけ何かを慈しむような何とも形容し難い妖艶さを発する事も勿論気付いていた。



「晋助を失った悲しみを、共有出来るのは銀時だけなの、」

「銀時…ぎんとき、好きよ」



あの頃、何も分からずに優越感に浸っていた俺はもういない。跡形すらねぇ、と思う。

それでも未だに彼女の前でガキん頃の自分を偽るのは、彼女が俺の全てだからだ。たとえ彼女が俺を憐憫を含んだ目で、哀れみの指標で捉えていたとしても構わねえ。は?俺の本音?
…んなの決まってやがんだろ。





きっと俺はぶっ壊れてやがる



「僕の知らない世界で」さまに提出

(20120229)

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