とんでもない危機に遭遇してしまった。

「ああ、なまえ…!久しぶりだね…!」
「ヒソカ…相変わらず気持ち悪いね」
「ああ!早く闘おうじゃないか!」
「いやだ、服着て」


やっと楽しくなってきたグリードアイランドでの生活。仲間はいないけどそれなりにカード集めも順調でこのままのんびり地道にやっていけたらな、って思っていた矢先。適当に入った森の中で、ヒソカという名前の変態野郎に出会ってしまった。

真っ裸で水浴び中だったヒソカが私に気付いた瞬間に、私のこのゲームでの生活は終わったようなものである。逃げようかとも思ったけど後々面倒になるのも嫌なので、仕方無く息を吐いて一糸纏わぬ姿のヒソカに視線を寄せた、という訳で。
ああ、なんて運が悪い。リスキーダイスで大凶を出した覚えはないんだけれど。


「服を着たらやってくれるのかい?」
「やらねーよ変態。早く服着て」
「たまには良いじゃないか、こういう生まれたままの姿も」
「見たくもないもん見せられてる私の身にもなって」


表情を歪めるとヒソカは益々興奮したような顔になる。なにこいつキモいどうしよう。いや、気持ち悪いのは前々から分かっていたけども。

思わず後退りしそうになるのをどうにか堪えて、冷静を装う為に腕を組んで仁王立ちしてみた。取りあえず大切なところだけでも早く隠して欲しい。暫くそのまま睨んでいると、渋々といったようにヒソカは服を着始めた。そうだ早く着替えろ。


「ねえなまえ」
「なに」
「やっぱり着替え、止めてもいいかな」
「は?」
「着衣のままじゃ出来ない事、しようじゃないか」


履き終えたばかりのズボンに手をかけながらニヤリとほくそ笑むヒソカにはあいた口が塞がらなかった。いや、変態もここまでくると凄いわ。ほんとだよ。

あからさまに引いた態度を浮かべるも、只今絶賛無敵状態中の変人には何の効果もなく、寧ろ興奮材料になってしまったようで「あはあ」なんて気持ち悪い奇声を発している。呆れたを通り越して怖くなってきた。逃げたい今すぐ逃げたい。逃げたいけど目の前にはわざとらしく両手を広げるヒソカの姿。これは多分逃げられない。不覚、というより不運だ。


「へんしつしゃ…」
「そんな事言わないでよ、ホラ、おいで」
「誰がいくか」
「何で来ないんだい?キミはボクが好きなのに」
「いつ誰がそんな恐ろしい事いいましたか」
「覚えてないの?酷いなあ。前、髪を下ろして化粧も落としたボクなら喜んで相手するって言ってたじゃないか」
「……早く死んで忘れて」
「そんな侮蔑の目で見ないでくれよ!イイねえゾクゾクする」


いや、意味は違えどその台詞をそっくりそのまま返したい、と心中でそっと呟く。本当にゾクゾクする。嫌な寒気である。しかも過去にそんな事を言ってしまった自分に対しても嫌悪感を抱いた。

何故、あんな事言ったんだ自分。確かにいま私の目の前にいる奇術師は変なメイクを落とし変な髪型を崩し、他人目から見れば拝みたてたい程のイケメンである訳だけれど、それでも中身の変態さは平生の彼と何ら変わらないのだ。いくら見目だけ麗しくても、中身が全く伴わないのだから意味はないというのに。…でもそれにしても、素は本当に只のイケメンだなこの変態。むかつく。

眉根を寄せた私の心情を知ってか知らずか、ヒソカは歪に口角を歪ませながらこちらへと静かに近付いてくる。因みに上半身裸の状態で。うん、やっぱり逃げよう。


「私はもう行くから。じゃあね」
「折角会えたのにそれは酷いな」
「っ、触んないで」
「フフ、満更でもないクセに」
「お巡りさんこっちです!」
「合意だから問題ないだろう」
「勘違いが甚だしい」


噛み付くように吐き捨てた言葉は、後ろから抱きすくめられる形で回された筋肉質な腕にぶつかって弾けた。水浴びした直後だからか、密着する肌がひんやりと冷気を帯びている。悔しいけれど、今度はいい意味でゾクゾクした。

駄目だわたし、流されちゃダメ。相手は変態奇術師だぞしっかりしろ。
平静平静、心の中で呟いて、しっかりと息を吸った。鼻の先にある腕をゆっくり押し退けてから、体を反転させて神々しいくらいに端正なお顔の変態と向き合う。騙されないぞドイケメン。


「今日はヤケに冷たいねぇ」
「そんなことない」
「フフ、でもキミの選択肢は2つだ」
「は?」
「ボクと殺るか、ボクとヤるかね」
「ごめんここまで残念なイケメンはみたことない」


溜め息混じりの私の本音には、「それはどうも」なんて皮肉な台詞(しかも語尾にハート付きうぜえ)が返ってきた。距離を離そうと身を引くも、その度追い詰めるかのようにジリジリとにじり寄ってくるものだから参る。

逃げたい、とは思うし逃げなきゃいけないと脳が警報を鳴らすのは感じているけれど、それでも体が言うことを聞いてくれない。動けない。何故だ。私も、もしかしたらヒソカの変態菌に感染しかけてるのかもしれない。こんな短時間で、なんて恐るべき感染力。

そんな事をぼんやり考えた瞬間。ひた、とヒソカの指先が首筋に触れた。


「…いい加減殺すよ変態」
「イイね、大歓迎だよ」
「もう本当にあっちいけ」
「やーだ」
「ああ…アンタに会ったのが運の尽きだった」
「そう言いつつも実は期待してるよね?」


でしょ?とか何とか言いながら私の耳元に唇を寄せてくるヒソカに、やっぱり色んな意味で背筋が寒くなる。
そもそも何故出くわしてしまったんだろう。何故この森に入ってしまったんだろう。何故ヒソカと付き合いをもってしまったんだろう。

後悔なら腐る程ある。あるけれど、その後悔を差し引いても目の前の誘惑には勝てないと段々に気付いてきた。なんか、もうちゃっかり首の後ろに手を添えられちゃってるし。真っ赤な舌チロチロ出して舌なめずりしてるし。ていうか、ああ、もう、顔整いすぎだろ。私が面食いと知っての仕打ちか。溺れそうなんだけど。初めの頑なな拒絶の心よカムバック。

思考とは裏腹に、体はもう勝手に動き出していたらしく、何時の間にか私の指先はヒソカの胸板を撫でていた。ついさっきまでは動きたくても動けなかったのに、なんとまあ使えない、というか欲望に忠実で不実な体だ。


「やっぱり、乗り気だったんじゃないか」
「だってイケメンなんだもん」
「クク、ほんと素直だね、なまえは」
「ヒソカも欲に対して気持ち悪いくらいに素直だよね」
「ありがとう」
「いや褒めてないから」


ツッコミは華麗にスルー、といった形でヒソカは早速私のキャミソールの中に手を入れてきた。なにこの余裕ムカつく。手が冷たくてびっくりする。…っていうか、ん?待て、ここどこだっけ。


「ちょ、ここでする気…!?」
「え?それ以外どこで?丁度池もあるし」
「や、やっぱりいやだ無理気持ち悪い寄るなえんがちょ変態ロリコン」
「ありがとう」
「だから褒めてないから!て、ちょ、ブラ外すな変態」


とんでもない危機に遭遇してしまった。
とか、冒頭みたいにかっこつけた感じで言っても今更どうにもなりませんでした。

器用に外された哀れなブラが草の上に静かに落ちる。ああ数分前の自分殺したい。なに流されてんだよ馬鹿なまえ!
憤る間にも、ヒソカの手が肌の上をスルスルと移動するのが恥ずかしい反面気持ちよくて、思わず「あんっ」なんて変な声を上げてしまった。流された事に対して絶賛後悔中の時に、また更に流される。やっぱり私はどうやら、変態菌に犯されてしまったみたいだ。



ヘムロック=毒人参
(20130219)

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