[スクアーロ]


私の口は、使い物にならない。だって、肝心な時に限って声が出ない。喉も同じで役立たず。

だから私は自分自身が嫌いだ。
一番大切な時に震えてくれない声帯だけじゃなくて、自分でも驚くくらいに高い銃撃の精度も、素早い装填が可能な腕も気配を殺して歩ける足も、それから何も考えずに人を殺すことの出来る脳みそも。私を構成する要因が、大嫌いでしかたない。


「よお、年明けたなぁ゛!」
「あ、す、クア…ロ、さ」
「あ?今何つった?」
「あ、えと、明けまして、おめでとう、ございます」


尻すぼみで口にすると、朝日に輝く銀髪をゴムで括ろうと奮闘中のスクアーロさんはまたもや「もうちっとデケエ声で言えよぉ!」と声を大にして返してきた。私はそんな彼がとても好きで、尊敬しているけれど、でも少し苦手だ。だって、スクアーロさんは私には眩しすぎる。

彼はいつだって自分の信条を曲げずに、大きな声で自己主張をしながらたくさん笑ってたくさん周りに激を飛ばす。その様子は私とは真逆にキラキラ輝いているようで、その光に私は思わず目を閉じてしまうのだ。もちろん銀色の髪の毛をはじめスラリとした肢体や端正な顔立ちと、視覚的にも眩しいのだけれど。

斜め下を向いて「ごめんなさい、声が出なくて」と口にすると、今度は先程同様に大声の返答に馬鹿にしたような笑いがオマケのように付いてきた。お前、いっつもウジウジしてやがるもんなぁ、ですって。まあ否定はしない。いや、出来ないけれど。


「すみません…わたし…苦手、で」
「苦手だぁ?」
「はい、あの、その、人と話す、のが、下手で…すみません」
「…お前、それでよくボスさんとこに報告書出しに行けんなぁ」


呆れ半分、感心半分といった微妙な面持ちのスクアーロさんに曖昧に頷き返す。恐らく彼が言わんとしているのは、私のような臆病者があの猛獣のようなボスと一対一で会話をして、よく殺されずに済んでいるなという事なのだろう。それは自分でも思う。

思うというより、実はボスに報告書を届けに行く度に殺されるのではないかと怯えている。なんせ彼が毎回のように萎縮する私に向かって投げる言葉は、「あ?」「次声張らなかったらかっ消す」「かっ消されてーのか」の三種類しかないのだから。本当に、今までよく死なずに生きてこれたと思う。でも、今年こそ危ない気もする。


「わ、たし…いつか、ボスに殺されちゃう、かも」
「ぶは!まあ気持ちは分からねーでもねえぜぇ!」
「ほ、ほんと…ですよね」
「まあそれも含めてお前だろぉ」
「そ…ですか、ね。それは、嬉しい…です」
「あ?それはの後何つった?」
「す、すいません、あの、嬉しい、って」
「……」
「あ、の…スクアーロ、さん?」
「決めたぞぉ」


え?と小首を傾げると、正体不明の決意を抱えたスクアーロさんとばっちり目が合った。
途端に顔全部が熱くなる。今年最初の朝日を浴びたスクアーロさんの銀色はどこまでも深く輝いていて、そんな神様みたいな人が今自分だけを見据えて真っ直ぐに言葉を紡いでくれているのだと思ったら何だか無性に泣きたくなった。

ああ、今この私の、自分でもよく分からない想いを全て言葉にして彼にぶつけられればいいのに。そんな勇気は微塵も有りません、なんて事実が身に刺さる。ぎゅう、と右の拳を握り締めた時、スクアーロさんが口角を愉快そうに歪めた。


「今年はお前のその声量を矯正する為に、俺が特訓してやるぜぇ」


どうやら私の今年の抱負は、使い物にならない程弱っちい性格を(私でなくスクアーロさんが)改革する、になるらしい。


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