「あっ、炉依ちゃんおはよー」
「おはよう」



爽やかな朝。これぞ秋晴れだ。

クラスの女子から笑顔で挨拶されたので、同じく目一杯の笑顔をもってして挨拶し返す。


勘違いしないで欲しいけれど、私に女の子の友達がいない訳じゃない。ましてや省かれているわけでもないし、それなりに女子と話したりもする。

でも女の子の親友はいない。
だから私は、周りの女子達の使う"いつめん"という言葉に憧れを抱いている。

女の子だけの、魔法の言葉。
少なくとも私にはそう聞こえる。

だっていつも連んでる四人と私とで、いつめんー!なんて雰囲気はないもん。あいつらといつめんですとか、もうどこぞのキチガイだよって思われるもん。


上手く女子同士のグループに入れなかった一学期の自分に溜め息を吐きつつ、ようやく着いた教室に入った。

ホームルーム開始十分前だけあって、もうすでに半分以上の生徒が教室内にいる。その中、窓際近くの後ろの方の一角に、嫌でも目に入る銀色の髪の持ち主もいた。




「お、炉依おはよーす」
「今日は早いじゃん銀時」

「まーな。俺って優等生だし?」
「どの口がほざくんだっつの」
「この口」



うざっ、という銀時への正直な感想を口にしつつ窓際の自分の席に向かう。
私の席は窓際の後ろから二番目の席だ。そして銀時と隣合ってもいるという。

うちのクラスは席替えも何も全くなくて、それぞれが皆好き勝手に席を交換しあっていた。

ちなみに私が毎日絡んでいる馬鹿共も一塊になっていて、もうお分かりかもしれないけれど、窓際後方辺りが私達のエリアだ。

隅の席が晋助、晋助の横にヅラと辰馬が並んでるって感じ。よく言えば賑やか、悪く言えば煩い。
…というかかなり騒々しい。


私が銀時とつまらない言い合いをしながら着席したのとほぼ同時に、ヅラと辰馬が二人して教室に入ってきた。二人が自然に私と銀時の会話の輪に入ってくると、私の中ではいつもの朝の光景が完成した気になる。

晋助はというと、実は彼は朝の景色の中に組み込まれる事がほぼない。

そう言うのも、晋助は不良というか悪い事やってる生徒、いわゆる問題児ってやつで遅刻してこない日はほぼゼロだ。

そんな晋助はやはりクラスの中でも浮いた存在で、みんなに怖がられているのが事実。
確かに晋助にガン付けられたら、私でも足が竦むだろう。


でもそんな事を言いつつも彼は美形だ。美形というよりは、色気の包含率が半端ない。
放出してるフェロモンの量なら、右に出る奴なんていないと思う。

だから女子に人気もある訳で。
特に問題児とかチャラ男系の男子が好きな、ギャル系の派手な女の子達からは絶大な支持があった。

まあ私達幼なじみにしてみれば、晋助の眼力がどんなに鋭かろうと、歩くフェロモンと呼ばれていようとそんなのはどうでもいいんだけどね。


モテるといえばヅラもそうだ。
男のクセにロン毛って事で一線を引かれてはいるものの、髪の毛を除いたらヅラはかなりの上玉だ。

顔立ちは端正だし、スタイルもいいし。あ、ただ変人だけれど。

でも実際、桂君て髪切れば完璧王子だよねー、なんて会話を幾度となく耳にした事がある。

もちろんそんな話をする彼女たちは、ヅラの性格なんて知りはしないんだろう。
だって知ってたら、絶対王子だなんて思えないもん。


銀時はまあ、目立つけど別段モテるってわけじゃない。
顔はいいとして、あのだらしなさっていうか無気力感が女子にはうけないらしい。私は結構好きなんだけどなあ。


参考までに、四人の中で唯一さっぱりなのが辰馬だ。
理由は簡単、誰もが辰馬みたいな癖っ毛グラサン男を敬遠してるからだ。

それに加えて辰馬は真正のバカ。女子からモテないのなんて目に見えてる。

あ、でも本人はもちろんそんな事気付いていなくて、例えば私たちがイタズラでこっそり彼の靴箱にラブレターを入れた時なんて小躍りしながら喜んでいた。
たぶん今も辰馬は、ラブレターの送り主の存在を信じて疑っていないんだろう。





「そういや炉依、おんし今日日直じゃろ」
「え、マジで?」

「あーそういや昨日嶺井達だったよな」
「うそ!覚えてないし」



最悪だ、と呟き頭を抱えながら机に突っ伏す。何が最悪かって、私一緒に日直の仕事をこなす相手が最悪。

なんたってそれはあの眼帯男だから。




「嫌だ!晋助全く仕事しないもん!!」
「んなこと言ったってしゃーねーだろ、席順なんだしよォ」

「でもやだ。ヅラ代わりにやってお願い」
「ヅラじゃない、断る」

「ホラぐだぐだ文句言ってねぇで早く日誌と出席簿取ってこいよ!」



ヅラの受け答えが可笑しいと突っ込む気力もなくなるくらいテンションが下がってしまった私に追い討ちをかけるかの如く、銀時がホラ行けよと言って私の背中を押す。

あーもう嫌!!
仕事も嫌いだし仕事をしない晋助はもっと嫌いだ。


晋助が来たら絶対仕事させようと決意を固めて、私は仕方なくも職員室へと向かった。






*



二限目の気怠い現国が終わり眠い目を擦っていると、ガラガラっと派手な音を立てて勢いよく扉が開いた。

誰が入ってきたかなんて見ずとも分かる。
こんなに扉を粗雑に開ける奴なんて、このクラスには一人しかいないからだ。



「よーす高杉、炉依がご立腹だぜ」



何食わぬ顔で教室に入ってきた晋助にいち早く声をかけたのは銀時。

私はといえばその銀時の隣で腕を組みながら晋助を睨み付けてやった。実は内心少しだけ怖かったけれど、そんな気持ちはおくびにも出さず、だ。



「あ?俺ァ何かした覚えねーぜ」
「晋助、うちら今日日直なんだけど」

「それがどうした?」
「晋助いっつも日直の仕事私に押し付けるじゃん。だから今日こそはきっちり働いてもらおうと思ってさ」



自分的には威厳たっぷりにそう言ったつもりなんだけど、何故か晋助は私を見ながらクツクツと音を立てて笑った。

もちろんムカつきましたとも。
何こいつ私の事馬鹿にしやがって、とか思ったよ本気で。

でも私は馬鹿達とは違って大人だ。
そう思ってふつふつと溜まっていく怒りを堪えて、カッカしないよう自分を抑える。
誰も誉めてくれないから自分で言うけど、私って偉い。



「何がおかしいかは分かんないけど、とにかく仕事はちゃんと半分だからね!」
「日直の仕事なんざやるヒマはねーな」

「サボるくせにそんな事言えないっての」
「お前だってサボるだろーが」

「私は日直の日くらいはちゃんとやれって言いたいんだけど」



このまま言い合いが続くと、長期戦が苦手な私の分が悪い。
そう頭の中で危惧しつつ、晋助の威圧感にもめげずに言いたい事を言葉にすると、彼も流石に言い合いが面倒くさくなってきたらしい。

ったく日直なんざ担任にやらせろや、とか訳の分からない事を言いつつ私の机の上の日誌を手に取る。

やった!なんて喜んで銀時の肩を半ば無意識的にばしばし叩いていた私は、何人かの女子に睨まれていることに気付きもしなかった。





*



「炉依ー、俺ら先帰るぜ」
「うん分かった」
「今日はヅラん家な、気ぃ向いたら来いよ」



はーい、と間延びした返事を銀時に返しながらちらりと窓の外を見やると、赤く染まった空と夕焼けに濃い陰を残す木々が目に染みた。

銀時とヅラ、それに辰馬が肩を並べて帰って行くのを見ながら、ああ今日も1日終わったなあなんて年寄りじみた事を思ってしまう。


三人はほぼ毎日、放課後は誰かしらの家に集合している。
理由は簡単、お互いの家が近い事と、ゲームで通信したいが為だ。

今はもれなく全員がモンキーハンターというゲームにハマっていて、彼らは時間があれば狩りに出掛けていた。
まあ私も例外ではなく、流石に三人程にやりこんではいないものの、一応カセットは持っている。

ちなみに私の武器は双剣、銀時が太刀でヅラが弓、辰馬は狩猟笛だ。晋助はたぶん持ってないと思う。


ヅラの家に寄っていこうかなぁなんて考えつつ、日直としての最後の仕事である教室の窓締めがあることを思い出して廊下を引き返す。早めに気付いて良かった。

日誌等を職員室に持っていってそのまま帰ろうと考えていたから、気付かなかったら失態になっていたと思う。晋助はもちろんやらないだろうし。


晋助といえば奴は結局あの後、日誌に殴り書きをしただけでサボリにいきやがっ…ごほん、サボりに入ってしまった。

まあ何もしないからしたら進歩したと言えなくはないけれど、それでも理不尽だとは思えずにはいられない。

次は絶対もっと仕事させるもん…!
そんな学級委員長みたいな使命感を噛み締めている間にも私は早くも教室の前に着き、なんの迷いもなく中に足を踏み入れた。



…んだけど、すぐにその事を後悔した。

だって中で、クラスの子が独りで泣いていたんだから。

誰だって気まずい空気は苦手だと思う。もちろん私も例外ではなく、この際窓締めなんて忘れたふりをして逆戻りしようかなといった考えが最高速で頭を過ぎる。


でも不運な事に、私は人影に気付いて振り返った彼女とばっちり目が合ってしまった。

こ、これは見なかったフリしたら逆に失礼…だよね。


ただこういう時に体というのは案外役立たずなもので、私は固まって逃げることも出来なくて。

ただその場しのぎとして、自分でも分かるくらいぎこちなく会釈をした。




2:眼帯男と日直



(20111119)


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