るんるー、るんるんるー。
何の気なしに出てきた鼻歌は、私達のいる空間にぽかりと浮かんでいった。

別に今そんなに気分が良い訳ではないのに、何でだろう。
頭の端でそんな風に考えながら私専用の毛布にくるまれば、ふわふわした生地が私の全身を温め守ってくれる気がしてちょっと心地いい。



「どうしだ炉依、機嫌がいいな」
「んーなんでだろ…ああ、三人がいないからかなあ」
「アイツ等は元気だな、若い」
「はは、発言がおっさんですよ」


ヅラも同い年じゃん、無意識に手に取っていたミカンを手の中で転がしながら、私とテーブルを挟んで向かい側に座る白雪姫…ならぬ桂に言葉を飛ばす。


クリスマスも終わりもう年の瀬、冬休みでもあることだしと毎日のようにヅラの家を、私物化する勢いで思い思いにだらだらしてる人間が約四名いた。その内の一人が私、あと三人は言わずもがなあの馬鹿達なんだけれど、今日は違う。

まず、何でも晋助が知り合いの先輩達からカラオケに誘われたらしく晋助がいない。

そして銀時はそれを聞きつけ半ば無理矢理着いて行ったのでいない。因みに銀時が行くとだだをこねた時に晋助はやれやれと頭を押さえていたけど、ちょっと満更でもなさそうだった。
晋助って実は寂しがり屋さん…とか、ないないない。考えたくもない。そう心中悲しく一人ツッコミをしながら二人を送り出したのはまだ記憶に新しい。

最後に辰馬。辰馬はうん、補習。
ほら彼少し残念な子だから。
辰馬は期末テストの成績があまりに壊滅的だった為に、三十日である今日まで補習を義務付けられていたのだ。


まあそんな訳で、今ヅラの部屋には私とヅラの二人しかいない。
だから何時もみたいな、耳を塞ぎたくなるような喧騒もなく好きなようにゴロゴロしていた。

ああ、これぞ冬休みって感じ。
そうひしひしと感じていた所だった。



「銀時達は楽しんでいるだろうか」
「うん、アイツ等はどこ行っても楽しめちゃうし、辰馬も多分補習楽しんでるよ」
「そうだな」
「ね。…ってヅラ何読んでんの?」
「ヅラじゃない、桂だ」
「雑誌読んでんのヅラ?」
「……ああ」



当たり前だけど言っておこうと思う、私は彼を桂と呼ぶつもりは毛頭ない。

そしてヅラもそれをもう分かっているだろうに、未だに訂正しようとしてくるんだから面白い。
もしかしたらそれはもう、ヅラの中で決まり文句になっているのかもしれないなあ。そう思いつつ、身を乗り出してヅラの読んでいる雑誌を覗き見る。

その際片手は毛布を掴んでいなくちゃずり落ちてしまうので、持て余してしまうに決まっているミカンはヅラの形の良い頭蓋の上に乗せてみた。まあ、いつ落ちるか分かったもんじゃないから依然片手はオレンジ色の球体近くに寄せておくしかなかったけれど。



「なにこれ…占い?」
「占いだな」
「え、ヅラ雑誌の占いページとか見るの!?」


聞いてからハタと気付いた。
そういえばヅラは私なんかよりずっと乙女ではないかと。

現にヅラは私から会話を振られた事が嬉しかったのも働いたらしく、目をキラキラ輝かせながら来月の自分の運勢と、それからご丁寧に私の運勢まで解説しだした。
どうやら私は来月…というか来年1月は、恋愛運は良いものの金運が最悪らしい。

ドキッ!運命の相手を見つけちゃうカモ!
ヅラが裏声をフル活用してそう読み上げた時には思わず吹き出しそうになったけども。


運命の相手、かあ。
知らず知らずの内にそう呟いていたらしく、ふと気付けばヅラからは不思議そうな視線を送りつけられていた。
彼は小首を傾げているからだろう、綺麗でサラサラした黒髪が、私のくるまっている毛布を掠めるように揺れている。



「心当たりでもあるのか」
「いや。心当たりはないけど」
「なんだ、銀時じゃないのか」
「はあ?何で銀時?」
「いつも世話を焼いているだろう」



何血迷った事言ってんのヅラ。
そう言おうと思ったのに、喉元に込み上げてきた言葉達はヅラが思い出したように吐き出した声によって見事に遮られてしまった。

ああ、そうか高杉か。
あろうことか、ヤツはそう言った。

ヅラにあんた頭は大丈夫なのかと聞くと、真顔で頷くという明らかに本気な反応が戻って益々加速する私の頭の回転スピード。

私が銀時や晋助と恋をする?
あいつ等が私の運命の人?
そんなの耐えられない。


「無理!断固拒否!」


白髪バカやオレ様隻眼と私がいちゃこいてる姿を真面目に考えてみたら、思わず涙が出そうになってきた。
無理だ無理、私は彼らを気心知れた友達以上には考えられないし、見れない。そうに決まってる。

それは銀時も晋助も同じ筈だ。
あいつ等だって私の事を恋愛対象として見る事なんて考えもつかないだろうに。

取り敢えずヅラの間違った思考を正すべく、その憎いくらいに艶々サラサラで美しい黒髪に、子供をあやすみたいに指をかけて梳きながら口を開いた。途中で指が止まらないのが羨ましい限りだ。



「銀時も晋助も友達だもん」
「ほうほう、そうか」
「うん。しかも私、あの二人だったら絶対ヅラの方がいいと思う」
「…ぷぷっ、」
「ちょ!何笑ってんのヅラ!」



ヅラの笑いが私的にはあまりにも突飛だった所為で、出した声は若干上擦ってしまう。

でも何故笑うのかがよく分からなかったので、今一度、今度は私が小首を傾げてヅラを見詰めた。そりゃもう、首の骨が曲がるんじゃないかって位に傾げましたとも。

するとヅラはさも可笑しそうに、私を見てより一層の笑顔を手向けてくるものだから、私は何だか気恥ずかしさみたいな変な感情まで覚えて顔を背けるしかなかった。まあ、その笑顔の中には馬鹿にした感が垣間見えた事は否めなかったけれど。



「なに、?私なんかおかしい?」
「いや、銀時も高杉も可哀想だと思ってな」
「はあ?かわいそう?」


ヅラは訳の分からない事を言うものだから、またまた私の声は上擦ってしまった。

今日のヅラはちょっと変だ、と思う。いや、いつも変だけど。

いつになく変なヅラは、また乾いた笑みを零して今の今まで私が触っていた綺麗な黒髪をするりと一掬い。
その動作も、まるでどこかの貴族の肖像画のような微笑も、何だかヅラのクセにすごい色っぽくて悔しかった。



「はは、炉依は分からなくていい」
「いや駄目だから、なに?なに?」
「まぁ…来年はいい年になりそうだな」
「もうヅラ訳分からん、変人」
「すまないな」


変人変人変態。

唇を尖らせて繰り返すと、変態は聞き捨てならないなとか真面目な目で言われたから、もう早々に床に転がり落ちてしまっていたミカンを彼の頭部に至近距離で投げつけてやった。

スク水好きが何言ってんだバーカ。
心中で呟くと同時に、鈍い小さな音がヅラとミカンの接触によって生まれる。

ああ、今の私はたぶん荒れてる。
ヅラに分かる事が自分に分からなくて、もやもやして、八つ当たりしてる。でも仕方ないよね、だって苛々するもんは苛々するし。


考えた結果、思い切りやさぐれてやろうという何とも子供っぽい結論に落ち着いた私は、取り敢えず仕方無しに再度うずくまり毛布に包まれた。
ただし、今度は背もたれの代わりにヅラの背中を使うので彼のすぐ後ろに回り込んで、である。



「あー、ほんとヅラムカつく」
「…炉依はお子ちゃまだな」
「………」
「ったい、痛い痛い痛い髪引っ張るな悪かった痛い痛いぞ!」



ぐーっと、まるで綱引きするみたいに全身の力を込めて長い黒髪を引っ張り続ける。それこそ抜けてもいいと、というか寧ろ抜けろと思っていた。私ってほんとヤな奴。

すると段々ヅラの声が涙混じりにな感じになっていくのが聞いてとれて、私の脳をああこりゃヤバいやりすぎたという伝令が駆け抜ける。

パッと手を離すも、どうやらもう手遅れだったようで。
案の定ヅラの草食動物張りに大きな黒目に溜まっていたのは今にも溢れそうな涙。


「ごめんヅラ」
「いい。俺にも非はある」


何言ってんの、私の八つ当たりに付き合わされたクセに。
何故か今ばかりはヅラの優しさが残酷な悪魔のように酷いものに思えた。

ああもう変な空気になっちゃったな。
変な空間で変なヅラと二人って本当に辛いわ。どうしよう。

…コンビニにでも行ってこようか。
私は簡単にこの場から逃げるという結論に至り、予想以上に重い腰を上げようと床に手をついたその瞬間。


部屋の扉が、まさしく「バーン」という擬音を伴って大きく開いた。


「おーいヅラァ!炉依!待ってたか!?」


騒々しく入ってきたのは三人の男子。
光を反射する銀髪と、隻眼の黒髪の色気ボンバーと、あと…だ、誰?

三人目は辰馬ではなかった。
辰馬だったら黒髪だし、グラサンだし、馬鹿笑いしてる筈だし。

それとは違う、茶髪でなんかチャラい、いかにもチャラい人。だって挨拶からして「どぉーもー!お邪魔するぜい!」だもんチャラくて目眩がするよ。

顔を横に向ければ、やっぱり私と同じようにその人を穴が開くようにポカンと見詰めているヅラ。



「銀時…、これ誰?」
「ああ、これなこれ。高杉の先輩」
「コレとか言うなよ!どーも!俺南戸でぇす!!」


…ああ、なんか銀時と晋助が霞むくらいにチャラい。

彼の右手に下げられたビニール袋内に詰まっているチューハイらしき缶を見て、何だかすごい疲れる1日になりそうだと思ったら溜め息が出てきた。




17:フラグ乱立事件



次回に続きます!敢えて原作ではほぼ絡みゼロの南戸を登場させてしまった

(20120226)


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