「楽しんでるか?テメー等ァ!」
「…いえーい」
「今日だけは羽目外せや皆!」
「いえー…」

「オイオイなんだテンション低くねーかツミ達は。今日何の日か分かってんのかァ?クリスマスだぞク・リ・ス「銀時煩いしね」すいません」


テレビから目を離さずに独りよがりなテンションの銀髪頭に厳しい言葉を浴びせると、意外にもしょぼくれた返答が返ってきた。

でも残念な事に今の私には、銀時が落ち込もうといじけようとそんなのに構ってやっている暇がない。故に銀時に見向きもしてやれない。
別に悪いとも思わないから良心の呵責なんて蟻の糞程もないけど。おっと例えが乙女じゃないなまあいいか。


何故私が、いや私達が銀時に構ってやれないのか。
答えはヅラの部屋の四隅の一角をを占める黒い液晶テレビに今現在流れているドラマにある。

クリスマスのスペシャルドラマと称したこの恋愛ドラマ、かなり泣ける。
もうストーリーも境に入り、余命1か月と診断された主人公が今まさにずっと好きだった先輩に涙ながらの告白をしているシーンだ。本当にもう、病気に負けるなユキナちゃん。

といった感じに画面を食い入るように見詰めているのが、私とヅラと辰馬の三人。晋助は一人携帯のディスプレイと対峙している。

そこで独り取り残されてしまったのが銀時という訳だ。

小学生顔負けのクリスマステンションの為ドラマなんぞに興味はない!遊ぼうぜ!と息巻いていた彼だけれど、肝心の遊ぶ相手がいないのでは意味がない。更に彼は、一人遊びが出来るような器用な人間でもない。

だから今銀時は、寂しさを紛らわそうと必死なんだと思う。
まあ餓鬼っぽくて可愛いのは確かだけど、いい迷惑に変わりはない。


大体クリスマスパーティーと称して、江戸時代のお屋敷を思わせる大きな日本家屋のヅラの家で何時ものように騒ぎ初めてもう十時間以上。酒も入れずに(いや高校生だからアレだけど)よくやるなというのが正直なところで、流石の私も疲れていた。

だからドラマっていう休息をとっても良い筈だし、何よりドラマ面白いし。

ただやっぱりそこは銀時。
何度はねのけられても、一人寂しいのが嫌らしい。

寂しいと死んでしまう兎かと思うくらいにしょげた表情で、涙目でテレビ鑑賞をする私達の前にバッと入り込んできた。ああ本当に嫌だこういうしつこい男。



「ちょっと銀時気が散る」
「うるせー相手しろコノヤロー」
「ねえお願いだから死んで」
「無理ですぅ!銀さん死ねなーい」


どうやら今までスルーしていたのに、変に受け答えしたのがまずかったみたいだ。

やっと会話のキャッチボールが出来た事が余程嬉しかったらしい銀時が私の肩に猫のようにすり寄ってきた。それはもうキラっキラに瞳を輝かせて。うざったいにも程がある。



「銀時まじで邪魔、見えないから」
「俺死ねないよ?いいの?」
「あーいいよいいよ、邪魔だから」
「話すときは相手の目ェみて話せってかーちゃんに言われたろ」
「うんそうだねドタマかち割るぞ」
「見ないとどかねーからな」



どんなに辛辣な言葉を浴びせてもどうやら今の銀時には無効なようなので、仕方なくテレビへ向けて伸ばしていた首を少しだけ傾けて死んだ魚のような瞳に焦点を合わせる。
自分でも恐ろしいことに、今スコップを持っていたら確実に銀髪の事を殴り殺していたと思う。

当然ながら私と視線を交わせた銀時は、満足気に口角は上げ目尻を下げると「さァ何て言うんだ?」なんて聞いてきた。

そんなの、と答えようとしてハタと動きを止める。

あれ、私なんの話してたんだっけ。
このパターンは銀時は答えを出すまで離してくれないだろうに、まさかのド忘れ。忘れたというかきちんと聞いていなかった。

ただ適当なことを嘯くのは心情的に許せない気持ちがあったので、煮えたぎるような思いを奥歯で噛み潰し正直に首をふるふる。



「ハア?お前人の話くらい聞けよ」
「あーハイハイすみません」
「話聞けよォォオ!」
「聞いてるよ聞いてる」
「テレビ方面に彷徨く視線は何だ」
「気の所為…わああ、ユキナちゃん良かったねえ…!」


ドラマの感動シーンに、知らず知らずの内に私の口からは喜びに満ちた感想が零れていた。

けれどそれを銀時が快く思う筈もなく。あ、やばいと察知して銀時を改めて見やった時には、もうそこには私の知っている彼は居なかった。

代わりにいたのはぷうっと頬袋を膨らませたリスみたいな銀時。
面倒くさい、そう声に出して叫べたら私の心持ちがどんなに軽くなる事だろう。



「やっぱ俺よりドラマじゃねーかァ」
「あーごめんごめん銀時君」
「るせェ大体テメー等こんなお涙頂戴感プンプンの茶番のどこが良いんだよコノヤロー!」


ヅラァ!坂本ォ!
と続けて吠えるように銀時は口にして、当然の如く当のヅラと辰馬はびくんと肩を揺らしてから銀時を振り返った。が、それは余計に銀時を苛つかせる結果になってしまった。

理由は単純、ヅラと辰馬の目尻には今にも零れそうな大粒の涙が溜まっていたからだ。

私個人的には二人の感情移入の凄まじさにちょっとだけ感服した。それと同時に銀時の大声に耳が痛くなったわコノヤロー。



「オメー等何泣いてんだァ!」
「…うぐぇっ、がんどうずる、」
「ヅラちゃんと喋れてないよ…」
「アッハっヒク、海水が出てくるき」
「辰馬は色々おかしいよ…」



崩壊しつつある(というかしてる)二人を前に、銀時の機嫌は益々悪くなっていくばかりで、もう今や彼の頬は破裂するのではと危ぶむくらいにパンパンになっている。

だからヅラ、鼻かむのも逆効果なんだってば。
心中でそっとツッコミを入れた瞬間、私がすっかりドラマより銀時に気を取られているという事実に気付いた。

そう言えばさっきまでは気になって仕方無かった、黒い近代技術の産物から流れ出る音声も、今では全くと言っていい程耳に障る事もない。

どうしてだろういつの間にだ。
自分でも分からない内に感動ドラマから銀時にシフトチェンジしてしまっていたという事実が、何故かは知らないけれどそこはかとなく悔やまれた。私は最近変なのかもしれない。



「何が恋愛ドラマだ!」
「まあ銀時落ち着」
「知ってるか?この主役の女優、昔風俗で仕事してたんだぜ」

「話聞けよ馬鹿しら」
「男ならそんなモン見んなら大人しくAV見るべきだろーがァァ!」



ぷちっ、といつぞやか聞いた事がある音が私の中で弾けた、のが分かった。

一度だけでなく二度までも、白髪馬鹿ごときに言葉を遮られるなんて。私の人生の中で稀に見る汚点じゃなかろうか。いや汚点に違いない。

そんな自惚れもいいとこな考えを抱きつつ、銀時の奴に何か言い返してやろうと息をつうっと吸い込む。

でも何て神様は意地悪なんだろう。
いざ言葉を紡がんとした私を遮ったのは、またもや銀時だった。いや、銀時というよりは暴走しかけた新しい銀時と言うべきか。


「ホラこんな詰まんねーの観てねーでAV見るぞAV!」


そう馬鹿みたいに吠えたと思ったら、今度はいきなりヅラの部屋の至る所を物色していく銀時。

ベッドの下、ラックの隙間、DVDケースの中身。
それらを隈無く見ていく銀時の背中は語っていた(ように見えた)。俺は今AVやエロ雑誌を探しているんだと。

でもこれって、自分がそういう卑猥なの隠してる場所を教えてるようなモノだよなあ…。

そんな私の呟きは見事誰の耳に拾われるでもなく天井まで昇ってゆき、室内の空気に溶け込んでゆく。少し離れたところで晋助がせせら笑った気がしなくもなかったけれど、それはカウントに入れない事にした。


はあ、と吐き出した大きな溜め息と同時に私の耳に流れ込んできたのは、派手なメイクが特徴的な有名女性歌手の高らかな歌声。

もちろんその音源はテレビな訳で、ああドラマも終わったんだななんてぼやぼやと考える。
さっきまで一心不乱に見詰めていた筈なのに、今となっては主人公の恋路がどうなったかなんて全然気にはならなかった。別にドラマの結末を知ったくらいで何か人生に得がある訳でもないしね。

けれどどうやら、そんな冷めた考え方をしているのは私だけなようで、ヅラと辰馬はガサゴソ忙しくしている銀時なんかには目もくれずにまだテレビに釘付けだ。

もうエンドロールに差し掛かりそうなのに、ヅラの場合は自分の部屋を勝手に捜索されてるのに、だ。結構な執着心に苦笑してしまう。


丁度その時、もう半ばヤケになっている銀時もエロDVDという名の彼の髪のように輝くお宝を見つけたようで、室内に「あったァァァアア!」なんて雄叫びがぐわんぐわんと反響した。


「銀時うるさい…」
「るせェな早速見ようぜ」


私の文句など無効もいいとこで、言うが早いか彼はもうプレーヤーに些か乱暴な手付きでDVDをぶち込んでいた。因みに目視できた範囲で推察するに、スクール水着もののようだ。やだヅラマニアック。

…って、そんな事思ってる場合じゃない。

このままだと確実にこの面子で、しかもこの状況下でAV鑑賞をしなければいけなくなる。それは嫌だ、避けたい。
観るならせめてもっとマシな日にして欲しい。よりによってクリスマスの日っておかしいだろ。

端から言わせればそれ以前の問題だろうと鉄拳を食らわせられそうな事を脳みその端っこでぐるぐる考えながら、その大部分ではどうやってこの場面を凌ぐか思案する。


あ、やばいもうDVDの画面に切り替えやがった。しかも晋助ちゃっかり携帯ポケットにしまってるし。
本当に今の男子高生は節操て言葉を知らないんだから。


銀時のイヤらしい表情を垣間見、もう諦めようかなんて思ったその瞬間。

後ろに置いておいた私のカバンの中から、ガサッていう音がした。

これは、プレゼント…!
そう、プレゼント交換用のプレゼントだ。そう言えばまだプレゼント交換してなかった私達。うわあ、救われた。


すぐにこの状況を打破すべく、クリスマスカラーの包装が施されたプレゼントを右手で掴みそのままテレビの前に立ちはだかった。無論銀時からはギロリと睨まれたけれど、めげないと自分に言い聞かせてプレゼントを胸の辺りにか掲げる。



「おい邪魔だ炉依」
「プレゼント交換してから!」
「ハア?なに言ってんだおま」
「ああ、俺とした事が忘れていた!」
「ってヅラもかよォォオ!?」


ヅラ、ナイス。
私が思わずそう口走ったのは言わずもがなで。


そんな訳で、嫌々DVDを停止した銀時も含め五人でのプレゼント交換(くじ)を行う事となった。

私が当たったのはヅラのプレゼントで、何だろうとワクワクしながら開けたにも関わらず中身は絶望的、まさかの美少女フィギュア(例に漏れずスク水姿)だった。うわヅラやっぱり変態マニアック。

因みに私の用意していた濃紺に所々金や銀の混じったオシャレマフラーは、何の因果が銀時の手に渡る事となった。本音を言うと黒髪に似合うマフラーを選んだのだけれど、本人は結構嬉しそうだったので良しとしようと思う。



兎にも角にも私達のクリスマスは、やっぱりぐだぐだで終わる事となった。

でもAVは見ずに済んだ。
良かった、みんな疲れ果てて雑魚寝してくれてありがとう。


ぐだー、なんて効果音が付きそうな雰囲気で床に転がる約四名を見て、「メリークリスマス」なんて呟いちゃった私は完全にイカれてるのかもしれない。



16:馬鹿だと思った



二話に分ければ良かった…
(20120211)


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